きみの夢に映える星座になるよ




 わたしの周りはお酒が強い人間ばかりだ。なので下手に宅飲みをすると、のちのち後悔することが多い。そういう後悔を繰り返して、今では悟くんとばかり飲むようになってしまっている。

「ねー」
「なーに?」

 ジュースと一緒に甘いお菓子をボリボリ食べる悟くんを、あけすけに言えば舐める気持ちになっていたのかもしれない。いやーわたしたち大人になったよね、悟くんはまだジュースだけど、的な。総括するならば、わたしは酔っていた。

「昔さあ、一緒に学生してたころ」
「うん」
「わたし虐められてたじゃん、悟くんに」

 高専時代の悟くんは、今とは違う意味で子供っぽく、かなりめちゃくちゃな理由でわたしは悟くんに小突かれて泣かされていた。傑くんたちがそれをみて、悟くんのことを遠慮なしにからかうものだから、悟くん(思春期)はツンデレのテンプレみたいなセリフを吐いていたのを覚えている。いじめられっ子ながらに、ああこの男の子はわたしのことが好きなんだなあ、最悪だなあ、と思っていた記憶がある。
 あ〜あったね、うん、と珍しく気まずそうな声を出す悟くんが、言い訳めいた言葉をいくつか口にしたあと、素直に謝罪をする。大人になったねえ、とわたしが笑うと、流石にね、と悟くんもわらった。

「ついでに恥ずかしいこと言っていい?」
「どうぞ」
「悟くん、わたしのことまだ好きなんだと思ってた」

 ぱちり、と悟くんが瞬きをする。きらめく瞳は、わたしの顔を捉えたままで離れない。悟くんはわたしの目を見つめながら、落ち着いた声で答えた。

「好きだよ」
「えっありがとう?」
「名前が振った話題だろ、逃げるなよ。ずっとまだ、今でも好きだよ」
「でも、だって」

 わたしも悟くんも、もう良い大人だ。お互いに、むかしみたいな子どもじゃない。結婚したっておかしくない年齢になった。

「心配しなくても、名前の結婚式で暴れたりしないって」
「ほんとに?」
「めちゃくちゃにしようと思ったら出来るよ、全然できるけど、しないでおこうって決めたの」

 五条家からそういう話があったのなら、わたしの家が断ることはなかったはずだ。嫁入りという形になったとしても、どういう形でも、今の五条家との繋がりより重いものはないと判断されていただろう。なら、つまり、悟くんはわたしと結婚したいなんて、一回も口に出さなかったということになる。

「何? 結婚式、めちゃくちゃにして欲しいの?」
「……してほしいっていったら?」
「いいよ、してあげる」
「怒られるね」
「うん、まあでも、好きな女の子からのお願いだからね」

 そのあとは?とわたしは聞く。悟くんは何も答えない。自分の声が震えているのがわかった。わたしと結婚してくれる?とわたしは聞く。しないよ、と悟くんは答える。悟くんの声はいつも通りで、いつも通りにやさしくて、穏やかで、わたしのことを大事におもってくれていることがわかる。

「僕と結婚してみなよ、名前の残りの人生、つっっっっまんないよ絶対」
「それでも」
「僕だけ幸せになっても、意味ないでしょ」

 君のことを守れる場所にいるから、とわたしの髪を撫でる悟くんは、わたしよりもずっと、ずっと大人にみえた。はるかとおくで、わたしが手を伸ばしても届かない場所から、わたしのおでこにキスをしてくれる。

(ひとの愛し方を学んだってだけだよ)




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