次の花が咲くだけのこと




 眠っていた名前がベッドの上から起き上がる。完全に覚醒したわけじゃあない。夢とうつつを彷徨いながら、じっと俺の顔を見つめてくる。この暗闇の中では、名前の視力じゃあ、なにも見えないだろう。それが良くなかったらしい。名前の心に不安が現れ、そして苦しそうな声を出す。どうせ起きているんでしょう、と心の中で呟きながら。

「こういうんじゃない」
「何がだ?」
「そういうところ!そうやって、ごまかしてる」
「大丈夫だ、明日の朝には心配ごともなくなるさ」

 おかしい、ぜったい、なにかがおかしいはずだと、涙を流す名前の心は視ているだけで痛々しい。名前は俺の優しさを受け入れるには強すぎ、俺の悪意を跳ね除けるには弱すぎた。

「なんで起きてるの?なんで?」
「名前が泣いてたからだよ」
「やめて、いらない、ひとりでいたい」
「眠ってる俺の肩を揺すったのは名前だろう?」

 俺の言葉に、子どもみたいな嘘で言い返そうとして、途中で黙り込んだ名前が、俺に謝るべきかどうかを悩んでいるのを見ていると、自然と口角もあがる。そんなことされなくても起きていたというのは、まあ言わぬが華というものだろう。

「名前は起きたいときに起きる!俺もそうさせてもらうぜ」
「いいの?」
「ああ、もちろん」

 名前の混乱が手に取るようにわかる。心なんか読めなくたって、俺の言葉にこの子がどんな希望を見出すか、理解しているとも。名前が欲しい言葉は、ちゃんと俺はわかっている。

「自分で、決めるから。すきにするからね」
「おう」
「そっか、そっかあ」

 すきにするといいよ、深夜に起きるくらいなら、すきにするといい。眠ってる俺をいつでも起こして、いつでも髪を撫でられることに、安心するようになればいい。俺は尽くす男だぜ。お前さんが俺の側にいることに満足できるよう、誠心誠意、努力するとも。

 誤魔化してるってのはしかし、ドキッとしたねえ!そんな言葉はさっさと忘れてほしいもんだ。嘘をつかないだけ、本心から好いているだけ、俺は誠実な男だと思うんだがなァ。段階もキチンと踏んでるし、優しくて、なんの痛みも感じたりしないだろう、俺の口説き方は。
 まあ今晩はちょっぴり、不安にさせちまったみたいだから、部屋を真っ暗にするのはやめるとするかね。俺の表情が見えなくなって、不安で泣いてしまうなんて、本当にいじらしくて可愛い恋人じゃあないか。


(ルール内の戦略なら許されるべきだろう?)




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