花みたいにもろい星よ、いとおしいきみよ




「おっかしいなあ」

 アーラシュさんの運んできたご飯をもそもそ食べていると、さっきまで楽しそうに話をしていたアーラシュさんが、不思議そうな声をあげた。なんですか突然。

「名前、だんだん弱ってきてないか?」
「、部屋に閉じ込められてたらそりゃ弱りますよ」
「こんなに尽くしてるのに、色恋ってのは難しいもんだなあ」

 時間をかければ、わたしがマジで惚れるとか思ってるんだろうかこの英雄様は。......思ってそうだなあ。頭おかしいんじゃないのか。

「女ってのは世話を焼いてくれる男を好きになるもんじゃないのか?」
「いつの時代の話ですか。というか、わたしは魔術師なのでそもそも恋とかしません」
「ふーん?俺が知ってる魔術師は大体みんな人間らしいけどなあ」
「藤丸くんは、ほとんどいっぱん、ぐっ」

 首筋に、アーラシュさんの大きな掌が当てられて、息がつまる。っそっちが言い出した話題だろ、っくそが。

「ダメだろう、名前。ほら、俺の顔みて」

 考えちゃダメなことを頭から追い出すのは、存外に難しい。藤丸くんは、ってちがう、あーくそ、アーラシュさん死ねばいいのに。アーラシュさん最低。アーラシュさんきらい。アーラシュさんしね。

「そうそう、俺のことだけ考えてな?いい子だな」
「ほんっと、頭おかしい、っくそ、」

 こちらの心が読めてるくせに、満面の笑みを向けてくるこの男は、やっぱりどこか歪だ。普通こんだけ嫌がられてたらもっと違う反応するでしょ。
 無理やり体の関係を迫ってくることもなく、恋人にするように優しい顔で甘やかしてくるアーラシュさんは、最初の恐喝まがいな言動さえなかったら、間違って絆されていたかもしれない。本人がいうように、ひたすらに「尽くして」こられると、なんの間違いか知らないけれど、アーラシュさんはマジでわたしのことを好きになってしまったんだなと思い知らされる。信じられないくらい悪質なバグだ。カルデアの召喚システム、なんか不備があるんじゃないのか。

「俺が名前を好きなのがそんなに不思議か?」
「明らかにバグってますよ、自分じゃ気付かないのかもしれませんけど」
「俺も英霊って前に、一人の男なんだから、好きな女くらいできるに決まってるだろ?
「はあ」

 なんかの拍子に、パッと元に戻ったりしないかな......。急にバグったんだから、急に元に戻ってもいいんじゃないのか?

「ったく、強情だなあ、名前は。本気で惚れてなかったら、今頃抱き殺してたぞ?俺の思いやりも少しは感じてほしいもんだぜ」

 ぞっとしない言葉に冷や汗がでる。カルデアから見捨てられた現状だと、殺されたとしても問題視すらされない可能性があるし、この人外はそれができるだけの力がある。めちゃくちゃに加減されてるからこそ、頭を撫でられても首が飛んでないわけで、本来ならじゃれつかれただけでわたしみたいな人間は即死だ。

「あ〜〜、ビビらせるつもりじゃなかったんだけどなあ。大丈夫だって、俺は力が強いのは生前からだから、手加減も得意だ。な?」
「び、ビビってないですもん......」
「はは、そうだな。名前はかわいいなあ」

 ちゅ、と首元に寄せられた顔を避けれなかったのは、決してビビったわけじゃない。ビビって相手の要求を飲むようになったら終わりだ。今のは、なんだろう、あれだ、面倒になっただけだ、うん。

「うんうん、そーだなあ」
「心読むのやめてもらえませんかね!?」
「以心伝心できてるほうが嬉しくないか?」
「わたしはアーラシュさんの考えてることわかんないので以心伝心ではないですね」
「ずっと言葉にしてるじゃないか。好きだぜ、名前」

 思わず変な顔をしてしまったわたしをみて、アーラシュさんが楽しそうな笑い声をあげる。あーなんか不思議な力で全部解決してくれないかなあ......。


(このままズルズルと妥協点がゆるまっていく未来が見えますね)




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