なにせ呪いはほどけぬもので




わたしの顔をみて『呪われてる』と言った男がいた。それは事実だ。正しい表現だと思う。わたしの人生と肉体は呪われている。おじさんは結局、わたしの呪いを祓う前にいなくなってしまったけれど、たくさんのものを残してくれた。おじさんの言葉は、わたしの生きる指針だ。

「洗脳じゃんそれ」
「おじさんの悪口言わないで」
「僕の言いつけは破るくせに?」
「悟くんはわたしにやさしいもん」

許してくれるでしょ、とわたしが聞くと、五条悟はニッコリとわらった。わたしの腰をつかんで、髪に指を通す五条悟の腕はおじさんよりも幾分か細い。けれどそこに込められた力は変わらない。世界でいちばん強い人間の腕が、わたしへの執着を隠すことなく絡みついてくる。

「ねえねえ悟くん」
「おねだり?」
「そうだよ、うれしい?」
「すーごいうれしいねえ」

ちゃんと面と向かって外出許可をゲットし、大きな庭をひとりで歩く。雪が降る冬の庭を裸足で歩いて、けれど全く冷たくなかった。後ろを振り向くと、五条悟が肩をすくめてみせる。

「悟くんは風情がないなあ」
「名前は濡れなくても世界一キレイだよ」
「濡れた方が美人が増すとおもわない?」

わたしの言葉を無視して、室内に引き戻す男に抱き抱えられながら、美しい庭を眺める。意味ありげにわらう男の笑顔が、なんとなく気に触ったので、膝を曲げて、足の裏で男の太腿を踏む。いっぱいに力を込めて踏みつけてやると、機嫌良さげに五条悟はわたしの足を撫でた。

「だいぶ筋肉落ちたね」
「悟くんのせいだよ」
「名前を守るのは僕に任せてくれればいいだろ?」

お前のためだよ、とたくさんの人間がいろいろなものをわたしに与えてくれる。わたしのためにどんなこともしてくれる。父はわたしの顔を焼こうとしてくれた。母はわたしのために父を殺してくれた。それから母はどうなったのだっけ。

「はやく何もできなくなってくれないかなあ」

おじさんは、わたしの顔は呪われていると言った。でなきゃお前みたいなガキの世話なんてしなかったと。どんな呪いも祓えるおじさんを、わたしの顔は確かに呪った。

「なんでもしてあげるよ、顔を潰してあげてもいい」
「……やめて」
「僕はそんなちゃちな呪いの有無なんてどうでもいいんだよってだけ」
「やめて、悟くん」

わたしの呪いを祓うのは簡単だ。でもおじさんはそれをしなかった。わたしの美しさを惜しいとおもってくれていた! わたしの顔を捨てる選択を最後まで選ばなかった。

「君が忘れるまで待ってあげるよ」

わたしは忘れない。わたしは絶対に、おじさんの言葉を忘れたりしない。甚爾さんがわたしを愛してくれていた可能性を忘れない。

「君の初恋は呪われてる」
「悟くんもそうでしょ」

五条悟はわたしの頬を撫で、手のひらごしに口付けをした。

(彼がわたしのことを分からなくなってしまうかもしれないでしょ)




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