記憶の花笠




ひとよりも、いろいろなものを見てきた人生だと思う。醜いもの、汚いものは特にたくさん。美しいものもそれなりに。何よりも、人間が生み出す悪意と呪いを、多く見てきた。

「こりゃひどい」

自分の腰より下にある、小さな生き物を観察する。大きな潤んだ瞳が忙しなく揺れ、けれども声はあげようとしない。間違いなく、この弱々しい生き物が短い経験から編み出した『生きる術』だ。気配を消すこと。視線から逃れること。誰の注目も浴びないこと。ただ一人で生き抜くこと。

「母親の呪いか? 父親の方か? まあどっちでも同じか、ここにいないってことは」
「……お願いしてもいい?」
「俺を雇うってんなら高いぜ」
「じゃあ泣くよ」

目の前の幼子は美しかった。その美しさがその人生を呪うことはもはや疑いのないほどに。周囲を呪い、自分を呪い、最後には破滅が待っているだろう。自分より格上の存在に今のような対処を続けるのならば。

「泣いてるお前のためだって、他人に殴りかかるような人間に頼るのはやめとけ」
「……」

頭は悪くないらしい。それとも達観しているのか、俺に怯えているのか、まあ何にしてもやることは同じ。

「今の戦略じゃあ、強い人間に誘拐されて宝箱に仕舞われて終わりだ」
「おじさん、わたしのこと誘拐するの?」
「俺はこれでも子持ちでね」
「関係あるの?」
「……まあないな」

そんな理由で、手を止めてもらえたことなんてないだろう。俺だって止めてやるつもりはない。自分の好きに扱ってやるとも。好きに扱いて、鍛えて、お前の呪いを祓ってやるさ。

「じゃあいくぞ」
「やっぱ拐うんじゃん」
「抱っこしてもらえてるだけありがたく思えクソガキ」
「え」

目を丸くして俺の顔を見つめてくる子どもは、今まで本当にやさしい人間としかエンカウントしてこなかったとみえる。そんなんであんなに不貞腐れた顔をするってのは、少しばかり人生に絶望するのが早すぎる。

「おじさん、おじさん」
「なんだよ」
「わたしの名前聞かなくていいの?」
「クソガキはクソガキで十分だ」
「ふーん」

この顔面でマゾとは、救いようのないくらいに呪われた子どもだ。まあそれは俺も同じ。絶望ってのにも順番があるって教えてやるよ。

(呪われた肉体と呪われた運命)




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