睫毛にやどる永遠は美しい




「七海さんの金髪って、染めてるんですか?」
「地毛です」
「へえ、いいなあ」

この髪色が自分の人生にもたらしたものは、多くの偏見と、勝手な期待と、要らない特別扱いとがほとんどだ。ひとと違う髪色は、日本の社会に適応しているとはいえない。けれど、ある種の武器になることもまた事実だ。

「確かめてみますか」

サングラスを取って、自分の肩より下にある名字名前の顔を見下ろす。数秒の間、無言で見つめ合う。そして、名字名前は嬉しそうに顔を綻ばすと、七海の目元に指先を伸ばした。

「わーきらきら」

女の指先が、撫でるように目元をくすぐる。七海をみて、瞳を輝かせていた。
好奇の視線には慣れている。無遠慮な言葉にも、配慮のないスキンシップにも、慣れたくないが慣れている。だが、彼女から貰える関心は、七海建人にとって特別な意味があった。

「あ」
「どうしました?」
「もしかして、わたし失礼なこと聞きました?」

離れようとする女の手首を掴み取る。伏せられようとする彼女の顔を、言葉でもって引き上げる。名前を呼ばれた女は、不思議そうな表情で、それでも素直に声を出して七海に返事をする。

「個人の容姿に関わる内容は、センシティブな問題です」
「はい」
「つまり、当事者間の問題であるべきです」
「はい……?」

名字名前は基本的に素直な人間だ。他人の忠告をよく聞くし、返事もキチンと返す。つまり社会性がある。七海は彼女のそういうところを、非常に好ましく思っている。

「私相手には好きに振る舞うといいでしょう」
「甘やかされてますわたし?」
「ええ、甘やかしています」

うーん、としばらく頭をひねっていた名字名前が、七海に掴まれたままの両手を伸ばす。

「七海さん、質問です」
「どうぞ、名字さん」

真っ直ぐに七海の目をみて、名字名前は非常に個人的な質問をした。七海は少しだけ考える。上司と部下という自分たちの関係を顧み、二人の成人した男女という自分たちのもつ権利と義務について顧み、七海建人は、名字名前がしたように、真摯な回答をかえした。

「ところで七海さん」
「はい」
「うで、疲れてきました」
「この業界で長生きしたいのなら、最低限の筋力はつけるべきです」
「きびしい……」

つい目つきが悪くなってしまった七海に、名字名前は萎縮するどころか、楽しそうに笑う。怒られているときはそれなりに深刻な表情をすべきだ、という七海の説教に、女はきゅっと唇に力をこめる。笑いを堪えるにしても、もっとやり方というものがあるだろうに、とため息が出る。ふざけているわけではないと理解しているが、社会人としては減点だ。

「わ」
「問題でも?」
「ちゅーされた」
「問題でも?」
「今は業務時間だと思います」
「……反省します」

名字名前は生真面目で、空気が読めず、すこしバカで、とても素直で、七海建人はこの女が好きだった。

(甘やかしも説教もついつい力がこもるというもの)




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