噴き出した想いは理解されなくてもいい




宿儺くんが楽しそうにわらっている。手招きをされたので、近くに寄ると、よしよしとわたしの頭を撫でてくれる。丁寧ではないが、痛くもないその手つきからは、彼なりのやさしさのようなものが感じられる。

「名前」
「なに?」
「親しき中にも、礼儀というものは必要だろう」
「うーん」

わたしは少し考える。這いつくばって頭を下げろと言われたら、別にぜんぜんしてもいいのだけれど、たぶん宿儺くんが言っているのはそういうことではない。礼儀、礼儀ってなんだろうか。わたしと宿儺くんの間には基本的に上下関係がキッパリしっかりハッキリあるわけだけど、あんまりその上下関係を表に出さないのが、最近の宿儺くんの局地的ブームだ。そのブームは終わり、ということだろうか?

「えっと、敬語使ったほうがいいですか?」
「お前の好きな男はそれで喜んだのか?」
「……べつに、もう好きじゃないですし」
「不愉快だ。敬語は使うな」

宿儺くんがわたしの手首を引っ張り、自身の頬に当てる。膝が浮き、バランスを崩すわたしの腰を宿儺くんの腕が支える。男の顔を見上げると、細められた瞳が、わたしの言葉を待っていた。このひとを喜ばせる言葉は、今までにいろいろあった。全く逆の言葉を求められることもあった。でも、その根元はいつも一緒だ。

「キスしてもいい?」
「もちろんいいとも」

そっと、自分の口を、宿儺さまの口元にくっつける。心臓がドキドキした。どんな理由で、どんな瞬間に止まってもおかしくないな、とおもいながら、顔を離す。

「これで終わりか?」
「えーーーっと」
「まるで児戯だな」

冷淡な言葉と裏腹に、宿儺くんの機嫌は変わらない。ご機嫌そうな表情のままで、わたしの返事を待つことなく、言葉を重ねていく。わたしはその場で何度か、深く息を吸う。やさしい宿儺くんの笑顔をみつめながら、肯定のうなずきを返した。

「そんなことまでしてくれるのか?」
「うん」
「俺は嬉しいぞ、感心なことだ」
「うん」

宿儺くんがニコニコと、嬉しそうにわらう。わたしも、宿儺くんに教えられた通りに、笑顔を返す。ひきつった喉も、手足の震えも、全部無視して、宿儺くんが望む通りに振る舞う。宿儺くんが気にしないのなら、宿儺くんがわたしの怯えを無いものとして扱うのなら、わたしもそうするだけだ。

「すくなさま」
「失言のひとつくらいは許してやろう、可愛い名前」
「……うん」


(周囲を自分を全部裏切ってしまえ)




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