最大級を託した




 無駄に豪華な生徒会室のど真ん中で、職務乱用を堂々と行う男に何度目かの声をかける。

「イアソンくんさあ」
「なんだ? この男がいいのか? こいつはそうだな……」
「もういいよ」
「何がだ」
「わたしの恋人選び」

 生徒会長にあてがわれた巨大な机の上に並べられた、学園の生徒の個人情報がつまった書類を、よくわからない基準で仕分けするイアソンくんが、わたしの『恋人選び』を始めてから、もう一ヶ月になる。コイツはここがクソ、コイツはどう、とか偉そうにしゃべり続けるイアソンくんに、今更だけれど真剣にストップをかけるわたしの言葉を、イアソンくんはまるっと無視する。

「心配するな、俺がちゃんとした男を見繕ってやる」
「やっぱり自分で探す」
「なんでだ、俺に任せておけばいいだろ」

 イアソンくんと長く一緒にいると忘れがちになるが、イアソンくんはすごいひとだ。特に人脈がすごい。すごい人は大体全員、イアソンくんのお友達だ。それは本人がすごいことにならないのかもしれないが、イアソンくんの人脈はレベルが違う。だから、イアソンくんに男の子の紹介を頼んだのは、まあだいぶ巨大な下心があった。すごい彼氏が欲しかったのは事実だ。でもさあ!

「最初にわたしに紹介してくれたひと、覚えてる?」
「アキレウス」
「……無理に決まってんじゃん〜〜〜! なんでわかんないかなあ!?」

 イアソンくんが連れてくる男の子は、文字通りの格上ハイパー世界規模の『良い男』だ。なんでわたしに紹介しようとおもったの? 嫌がらせかな? 相手のスペックをあーだこーだ言う前に、わたしのスペックを再確認してくれないかな?

「確かに早死にしそうなとこはあるが、無理ってほどわるかないだろ」
「アキレウスくんの悪口いわないで!」
「女のファンってめんどくせぇ〜」

 イアソンくん本人は顔面と人脈以外は基本的にさいよわなので、慣れればなんてことはない。でもイアソンくんが紹介してくれる男の子は慣れるとかそういうレベルではない。わざわざ時間をとって、わたしに挨拶をしてくださると、申し訳なさで自決するしかなくなる。

「バッカだなお前、自決は最後の最後にとっておけよ」
「今そういうはなししてない」
「あっそ、じゃあお前は一生独身するのか?」
「自分で彼氏くらいみつけられます!」

 イアソンくんが、珍しく真剣な表情で、わたしの名前を呼ぶ。こういうところが、本当にこの男はずるい。相手を丸め込むことしかできないくせに、みんなそのことは知ってるのに、それに抗えない。

「お前はまあ確かにグズだが、この俺の友だろう」
「……だから?」
「どんな男を選んでも許されるくらい、お前は良い女だよ」

 ニッとわらったイアソンくんが、わたしの背中を強く叩く。わたしは痛い、と抗議をしたが、イアソンくんの笑顔は変わらない。

「……次はイアソンくんみたいな男の子にして」
「おまえ、贅沢なやつだな…………」
「その反応おかしくない?」
「失礼だな!?」


(いざ恋人ができたら姑みたいになる)




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