尊きを問う




大人びた少年だった。穏やかに語り、静かに微笑み、真っ直ぐに背を伸ばす、その体は決して揺らぐことなどないように思えた。彼をどう表現していいのか、どのような枠組みに入れて処理をすればいいのか、わたしには未だ判断がつかない。

「私は、貴女の頼りになれると思いますが」
「子どもには頼らない」
「私と貴女は同じ年の生まれのはずですが?」
「自分が子どもだって理由で、子どもの世話にはなるべきじゃないと思います」

やさしい笑顔のままで、天草四郎時貞は黙り込んだ。誰もしゃべらない。
彼は沈黙を多く"使う"男だった、それが計算にせよ、そうでないにせよ、わたしはそれに屈することはない。わたしは沈黙を恐れない。彼の周りにいる大人たち、怪物たち、人間たちと違って、わたしは彼からの失望を恐れていない。

「では、私も貴女を頼りにしてはいけませんか?」
「わたしは頼りにならないと思うけれど」
「理由にはなる」

彼は、その場で手のひらを天に向ける。広げたその両腕の中には、何かがあるように見えた。信仰だとか、愛だとか、奇跡だとか、そういう類のものが。けれど、そこにあるのは空気と光だけだと、わたしたちはすでに知っていた。

「勘違いだと思うよ」
「何故です?」

わたしは何も言わない。誰もしゃべらない。
彼は"答え"を得るために、他人に頼らない男だった。いつでも自分の力で答えを得て、自分の意志で答えを作り出し、自分の中に生涯大事に仕舞い込む。だから、わたしは彼の質問には答えないことにしていた。わたしの言葉で彼の意志をねじ曲げられるとは思ってもいなかったし、したくもない。

「私にすがってはくれませんか」
「いいえ」
「私にもたれかかってはくれないのですか」
「いいえ」
「それは、私が子どもだから?」

わたしは立ち上がる。彼がいては、ろくに祈りも捧げられない。礼拝堂を立ち去るわたしの背中に、少しだけ嗄れたような声が掛かる。振り向くと、いつも通りの、天草四郎時貞が立っていた。子どもらしくない、穏やかに語り、静かに微笑み、真っ直ぐに背を伸ばす少年が、誰の助けもなく、堂々とその場に立っていた。

「大人になったそのときは、私のことを愛してくれますか」
「大人になったらね」


(来年など迎えられるはずもないのに)




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