高値で買うから売れよバカ




煙さんはいつも不機嫌そうな顔をしている。眉間のシワが常に顔に影を落とすその顔は、はっきり言って怖い。目つきも悪いし、口も悪いし、ガラも悪いし。
わたしが一生懸命に言葉を探している真っ最中に、煙さんは手のひらをかるく宙に上げた。わたしはそれを目で追い、しばらくその意味を考え、よく分からなかったので説明を続ける。

「黙れってのが分かんねえのか」
「洗いざらい吐けって煙さんが言ったんじゃないですか」
「俺を嫌うワケを言えって言ったんだ、テメエが言ったのは俺の悪口だ」

そのふたつの何が違うのか、わたしにはサッパリわからない。嫌いな理由を聞いて褒め言葉が出てくるとでも思ったのか?もしそうだとしたら煙さんは、ちょっぴりバカだ。

「自分のバカさを俺に押し付けるな」
「あー!そういうとこ!そういうとこが嫌いです!」
「名前、俺に感謝してるか?」

煙さんがわたしの顎を掴みながら聞く。わたしは少し考え、ある程度はそうだ、と答えると顎を掴む力が強まった。名前を再び呼ばれる。わたしは、なんだかいろいろが面倒くさくなってきていた。話があるって言われたから、わざわざ煙さんの部屋まで来たのに、さっきからずっと怒られっぱなしだ。説教があるって言われてたら逃げてたのに。

「カンシャシテマス、ボス」
「貴様にボスと呼ばれる筋合いはない」
「ねー、煙さん、なんでそんなに意地悪ばっかいうの?」

煙さんの三白眼が、じとりとわたしを睨み付ける。わたしは煙さんの瞳孔が、ゆっくりと動くのを観察する。しばらくの沈黙のあと、煙さんはわたしの顎から手を離して、そっぽを向いた。

「俺はお前を可愛がってやってる」
「うん」
「そろそろ懐いてもいい頃合いだろうが」
「なついてるじゃん」
「なら二度とこの俺に舐めた口をきくな」

わたしはすこし考え、唐突にひらめく。いい気分だった。王様になったようなきぶんになって、煙さんの名前をやさしい気持ちで呼べた。

「煙さん、わたしの言葉に傷ついたの?」
「当たり前だろう、俺は繊細なんだ、もっと媚びを売れ。俺がテメエを売り捌くぞ」


(陽気でおちゃめな魔法使いがタイプならまさにこの俺だろうが)




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