恋心の存在を確かめにいこうよ




「猪野くんって本読む?」
「当たり前だろなめんなよ」
「じゃあおすすめ教えて」

しばらく沈黙した猪野くんが、ぼそりと本のタイトルらしきものを呟く。スマホで調べると立派な賞を取ってる立派な本だ。むずかしいやつ。しかも論説文ってやつだ。国語のテストでしか読まないやつ。本当に存在したんだ。

「ぜったい読んでないでしょ」
「読んだ」
「証拠は?」

わたしのズバリと決めたツッコミに、にやりといやらしく笑った猪野くんが、大袈裟な動作でスマホの画面を見せてくる。猪野くんの部屋の安っぽく、実際に安い机の上に、すごい分厚さの経済書が乗せられている。ついでにドヤ顔の猪野くんも写っている。

「俺はちゃんと買ったんだぜ、すげえ値段だった、やべえだろ」
「えー……うそー……合成写真?」
「貸して欲しいなら貸してやるけど?」
「うーん、いいや、うん、」

わたしはちょっぴり悲しい気持ちで返事をした。猪野くん、本当はこういう本を読むような男だったんだ。わたしに隠れて、こっそり知的な活動をしていたなんて、知らなかった。友だちだと思っていたのに。

「で、どーしたんだよ」
「どうもしてないけどさあ」
「急に本の話したり、暗い顔したり、流石に俺でもわかるぞ」
「わたしはわかんない」

どうしちゃったんだろうねえ、と自分の口から情けない声がこぼれる。猪野くんはしばらくわたしの顔をじっと見つめ、わたしの肩に両手を置き、そのままキスをした。

「猪野くん、どうしたの急に」
「いや、ついにお前も俺に惚れたかと、おもって……」
「え、なんで?」
「可愛い顔で見てくるから……」

急にぼそぼそとした喋り方になった猪野くんが、顔を赤くして唸っている。わたしは猪野くんの馬鹿げた主張は、もしかしたら間違っていないのかもしれないなあ、となんとなく思った。

「猪野くん」
「なんだよ!?」
「わたしも読めそうな本で、おすすめある?」
「結局どういう質問なんだよそれ!ちゃんと教えてから聞け!考えてから答えるから!」
「七海さんが言ってたんだけど」

本の趣味が合うひとと結婚したら、しあわせになれるだろうって。だから自分にふさわしいひとを見つけるために、まずは自分の本の好みを見つけなさいって、そう言ってた。

「でもわたし、本とか読まないし、猪野くんが読める本なら読めるかなとおもって」
「俺、バカにされてる?それとも告白されてる?」
「どっちのつもりでもないけど」

一緒に図書館行かない?
わたしの問いかけに、むすっとした表情で、猪野くんは素直にうなずいた。きっとわたしたち、同じような本が好きになれるよ。


(七海さんが読んでた経済書を買って写真とって満足した猪野くん(6900円))




感想はこちら



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -