我慢すべきだとかなんだとか
制服姿の高校生に告白された。まあそれは別にいい。青春はひとそれぞれだ。年上に憧れちゃう子もなかにはいるだろう。
ことの問題は大きく分けてふたつ。まず、その男の子が銀髪でグラサンのヤンキーで、そこそこガラが悪いこと。わたしのタイプは確かに色素薄い系の長身のイケメンだが、ヤンキーはちょっといや、というか無理だ。こわい。
問題の二つ目は、なぜかお付き合いすることになり、なぜか一緒に暮らすことになったことだ。わたしはもちろん、当然、当たり前に拒否したが、現状を丁寧に説明され、尚且つ目の前で死にかけている人間だったものを見て、頷くしかなかった。ついでに言えば腰も抜けたので抱っこしてもらった。恥。
銀髪の男の子、五条悟くんはなんかよくわからんけどすごい人らしく、それをよく思わないひとたちは、これから積極的にわたしを狙ってくるらしい。そういう悪巧みが全部無駄だと、周囲が理解するまで、五条悟くんがわたしを守るよ、と。なるほど。
「なんで?」
「名前ちゃんが俺の恋人だから」
「勘違いじゃないですか!」
「え〜いいじゃん、付き合っちゃおうぜ」
お金もあるし〜お顔もキュートだし〜身長もまだ伸びてるし〜、とニコニコ笑顔で指折り数える悟くんの言葉を遮って、大前提の大問題を伝える。
「わたしたち、初対面ですよね?」
「ど〜でもいい!今日の夜何食べたい?」
お寿司?焼肉?フレンチ?とわたしに尋ねながらも、その足は目的地が決まっているかのように、迷いなく真っ直ぐに進む。
「……というかもう抱っこいいです!」
「足まだ震えてるけど」
「ふるえてなんか、」
「怖かったな」
悟くんの掌が、わたしの後頭部をやさしく押さえつける。悟くんの首もとに顔を埋めて、暗い視界の中で、いろいろなことを思い出した。曲がった腕とか、血の匂いとか、不気味な音とかを。
「もうああいうのは、見なくていいようにするから」
「一生?」
「うん、一生、ずっと、死ぬまでさ」
だから、俺から離れようなんて、バカなこと考えないでくれよ。
悟くんの声は、明るかったけれど、どこか寂しそうだった。何かを後悔しているように見えた。
「わたしのこと好きって言ったの、後悔してる?」
「後悔するような男にみえる?」
でも、ごめんな。遠くを見つめながらの悟くんの言葉に、いいよべつに、とだけ返した。
(守ってくれるんでしょう、ずっとずっと)
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