獣になるまで




生き物は美しい。心臓の鼓動、汗の滲む肌、逆立つ髪の毛。生きているというそれだけで、すべての生物は美しい!

「震えているね」
「た、すけて」
「泣くのも一つの戦略だ。挑戦してみるといい」

私の言葉、私の視線、私の一挙一動に、彼女の全神経が集中しているのがわかる。彼女自身は自覚していないだろうが、まさに今、彼女はひとつの動物になろうとしていた。本来あるべき姿に!

「雛鳥は可愛らしいよね。赤ん坊や子どもを見ると、どんな悪漢だって頬が緩むものさ」

彼女の目つきが変わる。縋るような、媚びるような潤んだ瞳に。自分の弱々しさを体の奥底から引っ張り出して、私の前に曝け出している。その姿に、自分の口角が上がるのがわかった。ああ、やはり。やっぱりそうだ!
私は彼女の首を掴んでいた腕を下ろし、両手を大きく広げる。弓矢も、ナイフも、わざと音を立てて床に落とす。

「おいで、ma chérie」
「……ルークさん」

ふらふらと、咳き込みながら、彼女はわたしの胸に向かって手を伸ばす。その瞳は夏の湖のように揺れていて、頬は熟れた果実のように色付いている。
彼女の細い腕が、私の首に絡みつく。熱い吐息が耳元をくすぐる。

「くび、痛かったです」
「ウーララ!ごめんね、私も興奮してしまったんだ」
「そんなに楽しいの?生き物を殺す遊びは」
「もちろん」

体を捻る。彼女の腕と足を掴み、地面に組み敷く。彼女が握り締めている金属の棒は、荒削りで、慣れないながらも彼女が工夫を凝らして作ったことがわかる。
私を見上げる少女の瞳から、涙が溢れ落ちる。けれど、それはもはや「弱さ」の現れではなかった。これは怒りの涙だ。私の心臓がまだ動いていて、私が息をして、彼女の上にのし掛かっていることに対する、激昂の涙。

「ほらだって、君も興奮しているだろう?」
「っころしてやる!」
「楽しいあそびは順番こだよ」

ざり、と彼女が地面を引っ掻く。爪の間に土と草が入りこむその指は擦り傷だらけだ。
ああ、美しい君。君は強くなった。もっと美しくなれるだろう。必死になって、命をかけて、その美しさを磨くといい。
いちばんの美しさが君に宿ったそのときに、この遊びは終わりにしようか。

(君の美しさは永遠にも手が届くはずさ)




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