無粋なことばで殺さないで




名前ちゃんは、どんなひとが好きなの?

友人の言葉には、好奇心と少しのお節介と、他にもいろいろな感情が込められていた。わたしへの友情とは別のものが。

「ごめんなあ、名前ちゃん」
「……アントーニョくん」

アントーニョくん。サッカーが上手で、笑顔がかわいい、クラスの人気者。この男の子は、わたしのことが好きらしい。ずーっと前から、わたしのことが好きで、わたしと恋人になりたい。その事実はどこからか広まって、今ではみんなの問題になってる。あとはわたしが頷くだけ、ということだ。

「わたし、やさしいひとが好き」
「しっとるよ」

なんで嫌なの?とクラスメイトが言った。わたしは答えられなかった。黙り込むわたしに、周囲はため息をついた。

「じゃあなんでやさしくしてくれないの?」
「好きな子は特別やろ?」
「わたし、いやがってる」
「うん、めっちゃかわええ」

わたしはアントーニョくんに背を向ける。肩を掴まれる。後ろに引き倒され、アントーニョくんの息が耳元にかかる。大きな声はでない。出しても意味なんてない。

「なんでわざわざ人気ないとこ来てるん?俺のため?」
「やだ!」
「うんうん、せやね」

ニコニコと笑うアントーニョくんの手のひらの熱に、勝手に目から涙がこぼれでた。

「ねえ、もうやだ」
「なまえよんだって」
「アントーニョくん、やめて」
「名前ちゃん、俺と付き合ってえや」

アントーニョくんの手がわたしの足首を掴む。一気に血の気が引くわたしの震えを、大きな手のひらが押さえつける。

「やさしくして」

わたしの言葉に、動きを止めたアントーニョくんが、目を丸くしてわたしの顔を見つめてくる。今までわたしが何を言っても、何をしても止まってくれなかったアントーニョくんが、驚きで固まっていた。

「な、なん」
「やさしくして、こわい」
「なんなんいきなり!?」

えっちなこといわんといて!と顔を真っ赤にして飛び退くアントーニョくんが、わたわたとよくわからない動きをしている。あまりの態度の変化に、わたしも一瞬面食らったが、次に湧いてきたのは怒りだった。無理やりちゅーしてきたこともあるくせに、とっさに出てきたセリフひとつでわーわー言われたくない。

「えっちじゃないし」
「えっちでしたあ!」
「キスもしたことあるのに」
「あれは俺からやったもん!」

いつも貼り付けたような笑みを浮かべているアントーニョくんが、めちゃくちゃに動揺しているのを見て、わたしはなんだか気が大きくなりはじめていた。ぷんぷんと怒りを見せるアントーニョくんを前にして、はじめて恐怖心が薄れてきていた。
だから、しゃがみ込むアントーニョくんの顔をつかんで、ちゅ、と自分の口をつけてしまったのは衝動のようなものだ。初めてじゃなかったし。なんなら舌いれられたこともあるし。

「……ず、ずるやん」
「ばーか」
「おぼえとれよこのかわい子ちゃんめ!」

ひとり残され、やり返してやればいいだろ、と言っていたギルの言葉が、わたしにもようやく飲み込めた気がした。


(好きな子の前でカッコつけてた(最低)だけ)




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