キスってのはもともと苦しいものだよ




控えめなやり方で自分から逃げていた女の子に「偶然だね」を5回言ったところで、観念してくれたようだ。そもそも、自分から本気で逃げたいのなら、遠回りがすぎるあの避け方は、たぶん照れ隠しだ。なので恥ずかしがり屋なこの子のために、僕の方から迫るのは優しさである。

「五条さん、その、おおきいから」
「何が?え?身長のはなし?」
「身長差があると、その」

びびりですみません、と申し訳なさそうに謝られて、想定外の回答に久方ぶりにこちらも困惑してしまう。いや身長よりもコワイとこもっとあるでしょ。身長とか俺の怖さのかなりどうでもいいオマケ要素じゃないの?タッパでビビるのって堅気だけだろ。

「何センチくらいなら怖くない?」
「うーん、どうかな……このくらい?」
「はい、どうぞ」

手のひらで示された高さに合わせて、腰を曲げてしゃがむと、名前ちゃんが少しわらう。今時こんなに小さい男、探そうと思ったら中学生以下になると思うけど、この子の許容範囲は狭すぎて悪いことはない。男嫌いなくらいがちょうど良いよね。僕はそういうの気にしないし。

「わーでも、腰痛くなりません?」
「いたいよ〜ってことで抱っこね」

びっくりした顔の名前ちゃんは暴れることもしないし、やっぱりこれは合意かな?と思って舌を舐めたら軽く噛まれる。気にしてないよ、というメッセージを込めて口角を上げると、腕の中の名前ちゃんが動揺したように震えた。

「びっくりした?」
「し、しましたけど」
「じゃあ噛んじゃったのも仕方ないね、いいよ」

曖昧にうなずいた名前ちゃんが、あんまり流れを理解していないことは、僕もあんまり理解していないということで、たぶんきっと許される。というか許してもらってる。消極的にだけど、いつでも僕のことを受け入れてくれる名前ちゃんに、僕がしてあげられることは身長差を埋めてあげることだろう。これには2通りの方法がある。

「身長ムリヤリ伸ばすのと、僕に抱っこされるのどっちがいい?」
「わ、わたしですか?」
「僕に決めてほしい?」
「あの」

それにしても『身長が高いから怖い』なんて、生まれて初めて言われちゃったなあ!真夜中に大して仲良くない男が背後に立ってて出てくるのがそれって、そんなのほぼほぼ告白だよね。


(こわいところは増えるたびに減らせばいいだろ)




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