つまりきみはそんなやつなんだな




どんな幸福も永遠にはつづかない。いい時期があれば、悪い時期もある。それが人生というものらしい。乗り越えなくてはいけない、自分のちからで。

「二人で乗り越えればいいんだ」
「ちがいます」
「君の問題は、俺の問題さ!」
「お願い、帰ってください」

アルフレッドの両手が、わたしの二の腕をつかんだ。動けない。動けるはずもない。わたしには、どうしようもない!そのことを、あのひとが理解してくれるかが不安だった。

「イヴァンなら、あと三時間は帰ってこない」
「なんで、」
「それに、俺がいるだろう?」

俺が守ってあげるから、とアルフレッドは明るい声を出した。君を脅かすあの男から、君を守れるのは俺しかいないんだ、と力強い声で宣言した。自分自身の権利のために、わたしはアルフレッドの手を取らなければならないのだと。

「アルフレッドくんの腕時計、壊れてるんじゃないの?」
「い、イヴァンさん、わたし」
「わかってるよ、僕は名前ちゃんのこと、ちゃんと理解してるから」

イヴァンさんが、アルフレッドのシャツの襟を乱暴に掴む。躊躇いなく振り上げられた腕に、自分の喉が震えるのがわかる。

「やめて、やめましょうよ、イヴァンさん」
「名前ちゃん、黙っていられる?アルフレッドくんがいる間だけでいいからさ」
「かえってください、ふたりとも!ふたりとも、かえって!」

イヴァンさんは、わたしの言葉に、ひどく傷ついた表情を見せた。アルフレッドは、不機嫌そうな表情を。わたしが頭を下げると、イヴァンさんは乱暴にアルフレッドの頭を鷲掴んで、部屋から出て行った。
家の外から、罵声が聞こえる。暴力の音も。二人の顔に、腕に、できたばかりの痣があったことを、頭の中から消してしまおうと、首を振る。

ちょっと前まで、つい最近まで、わたしの人生は幸福な時期にあった。イヴァンさんとはお付き合いしていて、結婚も考えていた。わたしもイヴァンさんも、結婚について具体的に言葉にすることはなかったけれど、そうする必要がないくらいに、わたしたちはお互いに満足していた。
わたしたちの生活が変わったのは、アルフレッドがわたしにプロポーズをしてからだ。アルフレッドは、わたしとイヴァンの関係は歪んでいると指摘した。自分には、愛するひとを助ける用意があると。

「イヴァンさんは、やさしいもん」

自分の声が、寒々しいフローリングに響く。イヴァンさんはやさしい。ずっとやさしい。今でもやさしい。わたしには。

もう恋人関係をつづけることはできない、とわたしが言い、それを受け入れてくれたイヴァンさんの言葉を思い出す。

「僕のこと愛せなくなっても、いいよ、しょうがないよ」
「……ごめんなさい」
「でも、ほかの誰のものにもならないでいてね」

君はやさしい、いつだって、僕にやさしかった。でも、それはもう期待しない。我慢する。君からの愛も我慢する。
涙を流すイヴァンさんが、わたしの両手を掴んで、わたしのことを愛している、と言った。そうして、顔をあげ、わたしの目をみて、寂しそうにわらったのを、覚えている。


(ひとりぶんの運命をふたつばかり)




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