恩知らずになってくれればいいのに




「あっ藤田だ!藤田〜!」
「ゲッ」

すごいスピードで突進してきた女が、ガッシリと俺の腰を掴む。一瞬で離れたかと思えば、その手には財布。

「お金かりるね」
「返さねえだろお前!」
「お前とはなんだお姉さまに向かって」

ただでさえ少ない中身を抜き取って、財布をこちらに放り投げた名前が、じゃ!と腕をあげる。
名前の魔法は『加速』だ。効果は俺と似たようなものだが、出せる煙の量が全然ちがう。つまり逃げられたら追いつけない。俺は半分諦めつつ、一応周囲に助けを求める。

「ドロボー!誰か!」
「藤田、コレお前の姉貴?」

そして天は俺を見捨てなかった。心さんが、何の気まぐれか泥棒をとっ捕まえてくれる。めちゃくちゃに暴れる名前が、全力で鳩尾に蹴りを入れているが微動だにしない。

「へっへっへ、年貢の収めどきだぜ……」
「ただの姉弟喧嘩なんです、許してください素敵なお兄さん」

心さんとの実力差を察したのか、媚を売る方向に変更したらしい名前が、こちらをガン無視して心さんに泣きついている。それをクールに受け流す心さんが、名前の首根っこをおさえつつ、俺の方に話しかける。

「藤田、紹介してくれ」
「えーっと?」
「お前の姉貴、すげー可愛いな」
「名前ーーー!逃げてくれ!」
「さっきからやってるっつーーーーの!!!!」

逆ギレをかます名前を捕まえたままの心さんが、いい名前だな、とマイペースに頷いている。

「藤田ァ、わかってるよな?」
「姉ちゃん、こちら心さん。煙ファミリーの掃除屋です。心さん、こちら姉の名前。スリです」
「ハジメマシテ。よろしくな名前さん」
「後で絶対殺してやるからな藤田ァ……!」

ちょっと涙目になった姉が凄んでくるが、可哀想なくらい震えているのと、背後に心さんがいるので全くこわくない。むしろ同情してしまう。

「名前さん、アンタ、金に困ってるのか?」
「身売りするほどじゃないです」
「そうか安心したぜ。んなことしてたら殺してたよ」
「藤田ぁ……」

あんまり俺の名前を連呼するのはやめて欲しい。心さんの機嫌が悪くなる。というわけで、俺は心さんの顔を立てて、ここは静かに立ち去ることに決めた。

「姉ちゃん、今までありがとう……」
「勝手に殺すな!」
「おいおい、結婚は流石に気が早いぜ、なあ名前さん」


(一ヶ月後にはラブラブになってるはず)




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