責任とれないなら嫌いでいて




やればできるのに。わたしの呟きに、少女はニッコリと笑顔をみせた。
その笑顔に気圧されたのは、なんというか、我ながら格好悪かったと思う。

「先生の成績にはならないかもしれないわね」
「いや、わたしの成績とかはどうでもいいんだけど」
「私のママが通ってた学校よ?何が悪いの?」
「悪くは……ないけど……」

家庭教師を頼まれた先の子供部屋で、わたしがこの小さくて可愛らしい少女とやっているのは、勉強ではない。毎日毎日、メイクの練習にクローゼットをひっくり返したファッションショーにありていにいえば、遊んでばかりだ。
ギグルスちゃんのお母様がニコニコとそれを許してくださっているからこそ、まだいい、というかバイトとしてはラクで楽しくて最高なのだけれど、それを看過できないくらい、彼女は頭のいい少女だった。
初日に「勉強なんて必要ない」と言い切った彼女の言葉を否定できない自分が情けなかった。

「学生時代を勉強に費やす方がバカよ」
「学生時代なんて一生のうちの一瞬だよ?就職とかもさ、考えてさ、」
「わたしは可愛いからそういうの困らないと思うの」

真面目な顔で言い切られて、ツッコミを入れた方がいいのかな、と一瞬おもったけれど、少女の大きな瞳を見つめるとそんなきもちも消えてしまう。
でも、とか、あの、とかワタワタするわたしに、完璧な笑顔のままで、ギグルスちゃんが小さく、先生にだから言うけどね、と人差し指を唇に当てながら首をかしげた。

「頭の良い女の子なんてモテないじゃない?」
「そこなの!?」
「あのね、いちばん良い学校に行った女の子に待ってるのは二番目の男だけよ」

いちばんの男は二番目の学校のいちばん可愛い女の子を選ぶ、と言い切ったギグルスちゃんの声には説得力がある。わたしよりも年下なのに。

「そんな顔しないでよ先生、私がいじめてるみたいじゃない?」
「でもギグルスちゃんは可愛いから、」
「あら、わかってきたじゃない」

でもイヤよ、とギグルスちゃんはベッドに寝転がる。短いスカートがめくれていたので、そっと直してあげると、なぜか不満そうな声が返ってくる。見せてたのに、と言われてもこの部屋には、わたしとギグルスちゃんしかいない。

「先生のいった通りの学校に行って、私に世界一素敵な恋人ができるっていうなら話は別よ?」
「できるとおもうよ!」
「約束できる?」
「うんうん!」

何も考えずにうなずいたわけじゃあない。ギグルスちゃんは恋人に妥協するような女の子じゃないし、彼女が射止められない男の子なんているわけないと思ったからだ。

「じゃあ志望校かえることにする」
「えっ!ホント!?」

じゃあ勉強を、とテキストをもちあげたわたしを無視して、ギグルスちゃんは今年出たばかりだというネイルポリッシュをみせてくれた。うん可愛いね、としか返せなかったわたしの弱気と関係なく、ギグルスちゃんは少しの勉強をするそぶりもなく、難関学校に特待生合格をしたのだった。

「じゃあ今日から先生はわたしの恋人ね?」




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