あかんくなったら連絡して




「あの......ディルムッドさん」
「なんでしょうか名前さん」
「お願いがあるんですけど」
「このディルムッド・オディナがどんな望みも叶えてみせましょう!」

声高らかに宣言したディルムッドさんの瞳はキラキラと輝いている。とても嬉しそうだ。彼は容貌もそうだが、精神も真っ直ぐで美しい男だ。わたしには勿体無いくらいの、素晴らしい人なのだともちろん理解はしている。だが、わたしの方は性根の小さな一般人であるのだ。無理なものは無理なのだ。というわけで言わせてもらいます。

「みんなの前では『このディルムッド』って一人称やめませんか?」
「皆、とは?」
「わたしのこと知ってる人全員です」
「名前さん......心配なさらずとも、私は他の人間にうつつを抜かすなどは決して!」
「はい、それでいいです、それでいいので、名乗りをあげるのはやめましょう?」
「了解いたしました。それで貴方の心が救われるのであれば」

わたしはそう、一度として、誰にも、決してひとに教えたことはない。ディルムッドさんのことは、なにを聞かれても秘密にしている。なのに、わたしの友だちはおろか、先生や学校の面識のない女の子も全員、君のフルネームを知っているんだぞ!ディルムッドさんの口の固さも信用しているので、この情報漏洩の原因は一つしかない。現代日本で名乗りを上げてからしゃべるのはやめようね。

「ではその......二人きりの時は、自由に話をしても良いのでしょうか?」
「ええ、ええ、もちろんどうぞ」
「それでは名前様と!」
「そっ、れは、やめましょう?さん付けの方が親しみがあってわたしは好きです」
「名前様はこの私に親しみを覚えてくださっていたのですね.......!」
「様はやめましょう????」

ニコニコと満面の笑顔を見せるディルムッドさんは、いつも以上に輝いてみえる。正直眩しい。人間の顔をみて眩しいと感じるようになったのは、だいたいこの男のせいである。
ディルムッドさんは基本的にポジティブではあるが、今はいつも以上に機嫌がよさそうにみえたので、少し踏み込んだことも言葉にしてみる。

「その、わたしの周りのお世話も、もっと大事なことだけにしましょうよ」
「名前さんのお手伝いをすることは私自身の望みです」
「でも小間使いみたいなことをする必要はないと思うんですよ?」
「確かに私の得意とする領分ではありませんが、警護を疎かにはしませんので、」
「警護とかも、そんなに必要ないと思うんですよ?」
「いいえ、いいえ!必要ですとも!絶対に必要不可欠です!」

あーやばいな、と思ったときには地雷を踏んでいた。世間がいかに危険で溢れているかを熱弁する男に、世間一般の常識は通用するようには到底思えない。わたしは曖昧に笑みを浮かべたまま、ただ嵐が過ぎるのを待つことにした。

唐突にわたしの前に現れたこの美しい外国人の幽霊さんが、いつか満足して成仏してくれることをただ祈るばかりである。


(キラキラ〜〜〜って消えたり現れたりする。美形は消える時も派手だ)




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