だれかが死ぬ話の途中




「それは俺のマスターの望みじゃあないだろう?」

完璧な聖遺物と、完璧な魔術回路と、完璧な望みを用意してもらっていた。その全ては家長に、家に帰属している。わたしの命が、わたしのものでないのと同じく、聖杯にかける望みもわたしのものではない。当たり前のことだ。否定をすべきだし、否定をしろと、床に倒れた兄が叫んでいる。

「マスター!」
「......」

燃える屋敷を背景に、笑顔で振り向いたサーヴァントが、大きく手をひろげる。片手にはわたしの身長よりも長い槍、炎に照らされた金属の鎧には血がついている。兄よりも強大で、父よりも濃い血の匂いがする男に教えられた通りに、足を前に進める。笑みを深めた男が、わたしの頭をつかむように撫でる。

「もっかいやり直そう、令呪が欠けてるのが気になんなら、他所から奪ってきてもいい」
「......」
「マスター、アンタの望みは?」

首を横にふると、男は不機嫌そうに眉をひそめた。視線が泳ぐわたしに、やりたくないことでもいい、と付け足す男の問いの答えを考える。この男が、わたしに求めている言葉はなんだろうか?彼はわたしに、何を望んでほしいと思っている?
焦りで冷や汗が出るわたしに、男が目を細めて優しい声をだした。

「お前さんの家族は俺が全員殺しちまった」

理解を示すために、ひとつ頷く。

「おこってるか?」
「......こまってる」
「そーか、そりゃ、うん、勝手にやって悪かったな……ってシャベッタな!?しゃべったなマスター!」

わたしの肩を強い力でつかんだサーヴァントの瞳がキラキラとかがやいている。その嬉しそうな表情が、見えない圧力となってわたしの口を開かせる。彼が望むままに口を開き、でもしゃべる内容が見つからず、また閉じると、男の表情がくもる。

「あっ、えっと、あの」
「アキ?」
「あき......?あきれうす?」
「ああ、困ったら俺の名を呼びな」

お前のためなら、なんでもしてやる。俺の名を呼ぶお前の声が対価だ。
戦争に参加すると決められたとき、自分の命に価値はないと教えられたとき、それでも、今ほどおそろしいとは思わなかった。彼が英雄だとすれば、わたしは一体何なのだろうか?


(わたしたちは、美しくあることができないし、英雄的であることができないのだから)




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