やさしくされる理由のない日





「名前よ、俺はまた学びを得た」
「はあ」
「現代の求婚において、告白のみというのは無作法だと」

いやな予感がする。いつもは騒がしい食堂に、好奇心の混じった緊張が感じ取れるからだ。

「自明のことだと、言葉にしなかったのは俺の怠慢だった」
「あの」
「お前は素晴らしい女性だ。特に感じ入る点は、」
「あのーーーーー!!!!」
「数多くの声色はいつも俺を楽しませる」
「そういうのは二人のときにしてもらえます!!?!」

大きな声を出したわたしに一ミリの動揺もみせずに、視線を合わせたままで黙りこんでしまうカルナさんが、怒っていないことは今までの付き合いで理解できる。でも頭と心の理解は違うんですよね!?自分の心臓がドキドキしているのをかんじる。これは動物的本能である。しにたくない!

「......その申出で、承諾した」
「ええと」
「俺の部屋でいいか」

わたし、なにも申し出ていないですよね?反論の言葉を出す前に、先ほど自分がしたツッコミを思い出してしまった。自分に一部でも非があるとわかっているのに、圧倒的強者に反抗などできない。なぜならわたしは小心者の臆病者だからだ。
ドナドナの音楽が脳内に流れるなかで、せめてもの抵抗でゆっくりゆっくりゆっくりと歩くことを決意したが、前を歩くカルナさんが一度振り向いたときにはその決意も溶けて消えた。視界に入っていなくても、わたしの一挙一動はカルナさんに筒抜けだとはわかっているが、つまりわざわざ振り向いたというのはそういうことでしょ?

「つまり.......俺は、お前のことを好ましく思っている」
「えっあっ、はい?」

部屋の扉の前に着いたところで、カルナさんがいきなり接続詞から会話をはじめる。そういうとこだぞカルナさん!なにも伝わってないぞ!

「お前自身の美徳こそ、俺がお前を傷つけないことの証明に他ならない」
「ありがとうございます......」
「名前、お前は何なら信じられる?お前の美しさよりも信じられることは何だ?」
「ははっ.......えっ」

変なわらいが出てすぐ、カルナさんの真剣な表情に顔が固まる。本気で言っているのだろうか?嫌味にしか聞こえねぇ〜〜〜!カルナさんは黙り込んだままで、わたしの返答を待っている。たぶん、何日でも、何ヶ月でも待つのだろう。待ちつづけ、こうして、すぐそばでわたしの目をみつめてくる。ヒトの形をした炎のようなひと。そばにいるだけで、その熱はわたしみたいな人間を怯えさせる。

「カルナさんが、わたしよりも強いことです」
「強い男は恐ろしいか」
「はい」
「恐怖はどんな人間をも拘束する」

カルナさんが、わたしに手を伸ばす。肩が震えた瞬間、カルナさんの手がその場で止まる。不自然に手を伸ばしたままで、カルナさんが静かに口を開いた。

「お前に軽蔑されることを、俺は最も恐れる」
「カルナさん?」
「お前が傷つくことより、俺は俺自身が傷つくことを恐れている。軽蔑するか」

めちゃくちゃな人だなあ、とおもった。だって矛盾しているじゃあないか。軽蔑されたくないといいながら、軽蔑されることをためらわない。カルナさんの中の「いちばんの恐れ」はたぶん一般人ならランキング圏外だ。

「その」
「ああ」
「がんばってみます、わたしも」

カルナさんの手のひらに、わたしも手をのばし、一瞬ふれて、やっぱり怖くなったのですぐにひっこめた。

「さ、さよなら!」
「名字名前」
「っはい」
「お前の優しさは俺の誇りだ」


(口説き文句がいちいち重たい)




感想はこちら



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -