ろくな愛をしらない




マンドリカルドが唐突に壁を蹴りつける。それ自体は別にいい、いやよくはないけど、壁は破壊されていないし、カルデア的にいえばそこまで問題のある行為じゃない。問題があるのは、蹴られた壁の横でうずくまって震えているスタッフがいることだ。

「マンドリカルド!」
「あ......」
「あ〜......」

こちらに気づいて目線を泳がすマンドリカルドは、自分が悪いことをしている自覚はあるようだ。

「......さーせんっした」
「言う相手がちがうでしょ!」
「スミマセンでした、名前さん」
「は、はい」

なにひとつ解決していない。そのことは藤丸立香も理解しているが、とりあえずはこの不幸な女性をマンドリカルドから解放するのが第一だ。何度も頭を下げて小走りで去っていく名前さんに申し訳ないきもちでいっぱいになりつつ、そんな名前さんを目で追いかけるマンドリカルドはとりあえず正座で決定だ。

「名前さんは喧嘩できるようなひとじゃないって前にもいったよね」
「っす」
「おびえてたよね?」
「......ハイ」

深刻そうな声を出して頷いたマンドリカルドは満面の笑みを浮かべている。これは完璧に味をしめている。今日もそうだが、自分が見ていないところでまたやるだろう。

「あのさあ、好きなんだよね?」
「名前さん、かわいくないすか?」
「仲良くなりたいなら協力するよ?」
「満足してるんで......」

しみじみとつぶやいているところ悪いが、名前さんの方は満足していないと思う。

「名前さん泣いてるんだよ」
「でも、あの、かわいいじゃないっすか」
「笑顔もみたいとおもわない?」
「心の準備があるんで......」

名前さんも準備をしたいとおもってると思うよ!自分のツッコミに、なるほど、みたいな顔をするのは不安になるからやめてほしい。無理矢理とった同意は同意っていわないから、脅しをする許可を脅しでとったらダメだからね?

「よく考えようよ、このままじゃマンドリカルドはただの暴力男だ」
「俺ァもともとそういう役回りっすけど」
「恋人になったら、あんなことやこんなこともオッケーだよ?」
「あんなこと......?」

そんなに深く考えたわけではないセリフに食いつかれてしまった。けれど、今より悪くなる可能性が思いつかなかったので、もちろんだよ!と強く肯定する。

「ここの医療技術ってどんなもんなんすか?その、具体的には?」
「はいダメ〜そういうのはダメ〜」
「名前ちゃんに許可はとるんで」
「急に馴れ馴れしい呼び方になったね」
「エッアッいまのは、ちが、っ名前さんには言わないでください!!!!」
「もっと別のところを恥じるべきじゃないの?」

キョトンとするのやめてくれないかなあ!?いじめかっこわるいよ!マンドリカルドのやってること、弱いものいじめだよ!

「くっ.......でも、その.......」
「反省しなきゃだめだよ、反省して、ちゃんと謝んなきゃ」
「名前さん、俺のことみると、こう、ちっちゃくなるんすよね」
「うん」
「か、かわいいと思いません?」
「マンドリカルド、我慢を覚えようか」


(顔にやけてますよ)




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