幽霊みたいなしあわせ





煙屋敷には絵も写真もたくさん飾られている。下っ端から幹部まで、被写体は様々だが、かなりの頻度で空白の額縁もある。入れ替え途中というわけではないらしく、煙さんのそれに使われるくらいの豪華な額縁は、煙屋敷の666不思議のひとつだ。幸運なことに、藤田はファミリーの中枢部の人間と話をする仲になったので、少しの好奇心で質問をする。

「前々から聞きたかったんですけど、この空白の額縁はなんなんですか?」
「あー......煙さんの......なんだろな.......なんだ?あれ」
「遊び相手じゃないですか?」
「いや煙さんの方はガチだろ」

あーだこーだと雑談をする掃除屋2人は、この額縁があてがわれている人物に心当たりがあるようだ。

「額縁の下にちっちゃく『生死問わず』って書いてあるだろ」
「キクラゲが来てから調子のってますからねアイツ」
「よく見たらこれ全部に書いてあるな、どういう人間がこういう仕事してんだろな」

手書きだろこれ、とよくわからないところを気にする心さんの興味が別に移ってしまう前に、聞けることを聞いておく。探し人という割には、あまりファミリーの人間に周知されていないのが気になる。それに、名前も顏もない手配書っていうのはなんの意味があるのだろうか。

「そりゃお前が下っ端だからだろ」
「う"っ」
「というか煙のやつが名前の顏知らないんだよ、嫌われてっから」
「一回だけ会ったことあるらしいけど、初めましてで捕獲しようとして逃げられて、それから今日まで......うわヤバいな」
「陰湿な男ですよね!」
「立派な座敷牢まで用意して、自分で掃除してんだろ?」
「そのひと実在するんですか?」

思わず口に出た言葉に、能井さんが爆笑する。いやその、煙さんを馬鹿にする意図はなかったというか、そこまでして捕まらないのが不思議というか。煙さんが本気になって、手に入らないものがあるとは藤田には想像があまりできない。

「実在しますよ」
「ウワびっくりした」
「お疲れ様です」

つなぎの下っ端が、蛍光イエローのペンキを持って挨拶をしてくる。例の空白の額縁に用があるようで、自分への煙さんからの信用はこいつ以下か......と藤田は少しだけ傷ついた。

「お前ホントにどこにでもいるな」
「わたしの話をしてたのが聞こえたので」
「え?知り合いですか?」
「今はなしてた名前だよ。会うのは割と簡単だ。呼べば来る」
「エッッッ捕まえなくていいんですか!?」
「つかまんねェし、名前に会ったって知ったら煙がキレるから報告もしねェ」

ペンキで金の額縁を雑に塗装、というか落書きをする名前さんが、わたしは地獄耳なので、と付け足すがあまり説明になっていない。

「まあ、ファミリーの癌みたいなもんだ、気にすんな」
「気づかないふりしときゃ害はねえよ」
「えーさみしー」
「煙さんとこ行ったら嫌ってほど構ってもらえんだろ」
「煙くん、なんか目がガチでこわいもん」


(落書きは現場保存されて後日画集にまとめられた)




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