ずるずると奈落まで





「そこのメカクレじゃないお嬢さん」
「え、あっと」
「そいつは君が思うよりもこわい男だよ」
「よくしていただいてるので......」
「名前ちゅわん......!」
「ハハハ、なに、忠告は聞くだけタダだ。受け取っておくだけならいいだろう」

黒髭さんによくしてもらっているのは本当だ。体格が大きいのでそれだけで最初はビビっていたけれど、いつでもニコニコしてるし、オタクっぽいところも慣れてしまえばむしろとっつきやすい。カルデアに仲のいいひとがいないわたしが、黒髭さんにくっついて回るようになるまでに、そんなに時間はかからなかった。だって面白いひとだとおもったし、やさしくしてくれたし、だって、

「だからこんなとこで震えてるのかい?」
「っ、」
「どうしてあんな、こわい方から数えなきゃいけない男に懐くかな」

どうして、と疑問を口にしたわたしに返ってきたのは、優しいが一線を引いた声だった。あの大男が探していたよ、どうする?と首を傾げたバーソロミューさんのロザリオが音を立ててゆれる。それだけで心臓が嫌な音をたててしまうわたしに、わずかに眉をひそめた彼の心中はわからない。わからないけれど、わたしに好意的であるようには思えなかった。

「まあ私はアイツの捜索の手伝いをしてるわけじゃあない。チクりとか美しくないしね」
「あ、あの、わたし、どうすれば」
「うん?そうだな、海賊相手に裏切りとかは多分後悔するからやめておくといいよ」

裏切り、になるのだろうか。でも探してるっていってたし、でも黒髭さんにまた会って、いつもと同じ顔をできる気もしなかった。バーソロミューさんの前ですら、こんな有様なのに。

「それじゃあまた。メカクレじゃないお嬢さん」
「め、目が隠れてたら、あの」
「えっ?いや?なに?よく聞こえなかったのだけれど」
「目がかくれてたら、たすけてくれますか」
「もちろんだとも!!!!!!!!!潜在的メカクレの君!!!!!!!」

パアアッ!と笑顔になったバーソロミューさんが、わくわくとした表情でわたしの顔をみつめてくる。でもどうしようか、髪の毛は目が隠せる長さじゃあないぞ。ストレスで変な汗がでてきた。今は無理ですって言ってもいいのだろうか?怒られないだろうか?

「ああ、そうだね、この布を君にあげよう」
「エッありがとうございます」

もたもたと布を巻こうとして失敗するわたしを叱ることもなく、よければ私が巻こうか?と申し出てくれるバーソロミューさんに言われるがままに頷く。ほんとうに、なんというか、わたしはいろいろなところで考えなしなのだ。後悔するころには、いつもにっちもさっちもいかなくなっている。

「名前を教えてくれるかい、素晴らしいメカクレのお嬢さん」
「あっ、名字名前です、けど、ちょっとあの」
「名前ちゅわん..........素敵な名前だ...........」
「あの、前が見えなくて」

しっかりと巻かれた布は軽くて動きの邪魔にはならないけれど、瞬きをできるだけの隙間がない。目を閉じて巻いてもらったわたしも悪いと思いますけど、その、片目だと思ったから?

「ふむ、これじゃあ歩くのにも危険が伴うね」
「そうなんです」
「私が運ぼうか、失礼」

目の前が真っ暗のままで体が浮き上がる。思わずそばの男にしがみつくわたしに、嬉しそうな笑い声がきこえた。テンションの高低差が激しすぎて口を挟む勇気がでない。でも歩いてるよね?どこにかわからないけど運ばれてるよね?

「あの、バーソロミューさん」
「呼び捨てでも構わないよ」
「あの」
「おいしいお菓子があるんだ!食べるだろう?」
「はい、あの、」
「名前ちゃんが苦手なお菓子は事前にリサーチ済みだ、安心してくれ」
「あのお......」

よどみなくしゃべりつづけるバーソロミューさんと、うまく意思疎通ができている気がしない。しないけれど、どんどんと話題が移り変わりすぎてついていけない。
自分の力と技術では頭に巻かれた布が取れないと気付いたのは、バーソロミューさんの船の客室のベッドの上だった。ど、どうなって、どういう原理で巻かれてるのこの布!?


(海賊は全員こわい男だよ)




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