かがやけるまぼろしのまま




※第n次聖杯戦争時空

「君の願いを聞いておこうか」
「わ、わたしは......貴方に生きていてほしい」

美しい青年は何度かゆっくりと瞬きをし、いいよ、と笑った。


「マスター、一緒に散歩でもどうだい」
「いやです」
「つれないねえ、おや、こんなところに聖書が」
「......」
「せっかくだし読もうかな。詩篇第」
「23」
「いいとも。でも、録音はご遠慮願おうか」

ダビデ王の言葉に、しぶしぶとボイスレコーダーをしまう。個人の楽しみという範疇では許されるのでは?と一度議論したことがあったが、規範についての話し合いでダビデ王に勝てるはずもないことがわかっただけだった。あ〜最高の賢者ってかんじで最高だよね本当に......アーメン.......
形の良い唇から、ゆっくりと神への祈りがつぶやかれる。美しい祈りが。この言葉に救われてきた。神を信じることに救われてきた。彼の言葉に、彼の存在に救われてきた。どんなことがあっても、生きていられた。

「マスター、君は生きるべきだ」
「はやく行って下さい」
「馬鹿げていると思うよ、価値の釣り合いがとれていない」
「信仰より重いものはありません」

ダビデ王は、少しだけ眉をひそめた。ああ、美しいひと。神に愛されたひと。神に許されたひと。貴方からの憐れみは、わたしたちにとって、他の何よりも優るよろこびだ。こんなことが、わたしの人生で許されることが叶うとは思わなかった。ダビデ王のために死ねるだなんて!

「僕はサーヴァントで、君は人間だ」
「ええ、それが?」
「さっきの命令を僕に受諾してほしいのなら、残りの二画も使ってもらわないと」
「わかりました」

令呪を重ねて使用する。ここからの素早い離脱を。生き延びる選択をしつづけることを。
言い終わったと同時に、体が持ち上げられていた。ダビデ王は細い腕でわたしを担ぎ上げながら、涼やかに笑った。

「実はこういう命令は慣れっこでね」
「なん、で」
「この種の命令の抜け道なら知り尽くしてるんだ」

君が単純でよかった、とのんきにしゃべっているが、今わたしたちは殺されるかどうかの瀬戸際だということをちゃんとわかっているのだろうか?神に愛されている人間だって死ぬんだと!

「制度上、今の君は僕のマスターじゃない」
「令呪の縛りはそんなことじゃあ消えません!」
「僕は神のつくられたルールに従って、怪我をした美しい女性も助けることにしただけさ」

そんなことをする必要はない、そういうべきだった。けれど、彼の声があまりに堂々としていたから、言葉が出てこなかった。綺麗な髪には血が付着していて、華美ではない軽装は、彼が言う通りに王というよりも羊飼いのそれだったけれど、このひとは確かにダビデ王だった。

「ああそういえば、まだ聞いてなかったけれど」
「はい」
「僕の妻になるかい」
「ダビデ王はそんなこといわない!!!!!」
「うーん、好感度が高すぎるのも考えものだな」


(ダビデ王が召喚されたときに一回気絶してる)




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