プラスチック製だから気にしないで




アーラシュさんは生前、病気や怪我とは無縁だったらしい。いいことですね。わたしの先祖も、スキル「頑健」のような肉体を獲得するために魔導の道に入ったんですよ。わたしがそう語ると、アーラシュさんは少しだけ笑顔を曇らせた。

「だからこんな無茶するのか?」
「いやだから、無茶じゃないんですよ。人より肉体が頑丈なんです」
「倒れてからじゃあ遅いだろ」
「あの心配性なドクターロマニのお墨付きですよ」

カルデアはわりとブラックな組織だが、無茶をする必要があるときにしか、そういう命令は下されない。それ以外の期間はむしろ、研究にかまけて健康管理を忘れると警告が飛んでくる。優秀な人間は自分の面倒も自分でみる。まあ天才はその必要はないのだろうけれど。わたしは天才ではないので。

「アーラシュさんは、むしろわたしの事情を理解してくれるのかと思ってました」
「わかるぜ、疲れも痛みも、活動の限界が理解できないのは」
「限界は理解できますよ。その限界上限がひととズレてるだけです」
「名前の言いたいことはわかる。俺たちは、俺たちみたいな人間の周りの気持ちがわからないんだよな」

まあ交流を初めてすぐに、肉体強度に驚かれることはあるが、ドン引き!なんてことにはめったにならない。魔術師としては、わたしは一般人に近いほうだ。世界には化け物が多すぎる。
アーラシュさんの心配はうれしい。魔術世界では、その反対はあっても、純粋にこちらを案じてくれる人間なんてめったにいないのだから。「えっ休憩とかするんだ、名字なのに」とか言ってくる人間ばっっっかりだからね!うるせえ!

「心配されて、嬉しいなんて言ったら、性格が悪いですかね」
「いいや。そう感じてくれるなら、俺も救われる」

それでその話は終わった。終わったと思っていた、わたしの方は。
しばらく後、肉体の作動チェッカーが生まれて初めて見る反応を示した。このままでは誤作動を起こす。魔力を回し、事なきことを得たが、この記録はあとで解析しなければいけないだろう。その次の日、また違う反応が起こり、その次の日も、その次の日も。
わたしは生まれて初めて、医務室に足を運んだ。わたしの身体は秘術の塊だ。本当はひとに診察させるなんてしたくはないが、致命的な破損が起こるよりはマシだ。

「おやどうした、常識的健康人間。貴様がここに何の用がある」
「体調不良の原因を探っていただきたくて」
「すぐこい。座れ。脱げ。質問に答えろ」
「あの、結果はデータベースに残して欲しくなくて.......」
「その交渉は後だ」

たっぷり5時間かけて診察をしたあと、アスクレピオス先生はつまらなさそうに、お前の肉体は本当に予想の範囲内の反応しかしないな。人体模型の才能がある。つまり臨床の現場では無意味だ。と愚痴をぶつぶついいながら、薬を処方してくれた。

「お前の健康は神の血でも、人外からの祝福の結果でもない」
「はい」
「医療について学んだ後に毒を盛れ、もしくは僕に相談してから実行しろと言っておけ」
「ご迷惑をおかけしました」

医務室を出ると、扉のすぐ前にアーラシュさんが待機していた。うーん潔い。ここまで堂々とされると、どういう態度をとればいいのか迷ってしまうな。普通なら怒るところなんだろうけど。とか悩んでいるうちに、アーラシュさんのほうから話始めた。

「名前、俺はお前が好きだ」
「あ、ありがとうございます」
「お前に嫌われるのは避けたいが、俺の気持ちより、お前の将来が大事だ」
「肉体が破損したら、魔術師としての将来が消えるので勘弁してほしいんですけど.......」
「破損は治るだろ?」
「あの毒、普通に致死量でしたけど!?」

本気でびっくりした顔をしているので、なんで大丈夫だと思ったんですか?と聞いたら、自分で服用して、これくらいならいいかな!で決めていたらしい。適当が過ぎる〜〜〜〜!!!!

「二、三日寝込むくらいで調整したつもりなんだが.......」
「アーラシュさん、ここずっと元気でしたよね」
「飲んでくらっとするやつは大丈夫そうだったから、ふらっとするやつにしたが、危なかったか?もう治ったか?元気か?」

わたしの身体を触って確認してくるアーラシュさんが、めちゃくちゃに焦っていることがわかったので、まあこの表情を見れただけで許してあげようかな、と思った。ちょっと甘すぎるのは自分でもわかるが、まあこれは惚れた弱みだ。

「病気では死にません。それが家のプライドなので」
「でも毒だと危ないんだろ?」
「そこらへんは、アーラシュさんが助けてください」
「......そうか!そりゃあ、俺の方が言うべきセリフだったな」

俺はそういうのが本当に下手なんだよなあ、と反省しているところ悪いが、アーラシュさんは自然体で格好良いから、口説き文句なんて必要ない。プレイボーイみたいになってしまったら、わたしの心臓がもたない。いやだよ心臓発作で死ぬなんて。

「あっわかるぜ!俺も名前を見てるとドキドキすることあるが、あれはびっくりするよなあ」
「はい、びっくりしました。体調不良かな?って生まれて初めて思いました」
「ははは!俺もそれはおもったな!」


(医務室の扉を塞ぐな!と怒鳴られる)




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