こいにきけんなどあるものか




謙遜も過ぎれば嫌味になる。彼のためにあるような言葉だ、ほんとうに。
今日も真っ直ぐな視線が後頭部に突き刺さる。わたしみたいな非戦闘員にもわかるということは、この食堂にいる知的生命体の100%がそれを感知しているということだ。盗み見るとか、そういうことはできないんだろうか。誇り高き英雄はそんなことをしないということだろうか?英雄の自覚があるのなら、わたしのような一般人をストレスで苦しめないでほしい。

居心地の悪い食堂から退散すると、後頭部に感じていた違和感がスッと消え去り、瞬きをする間もなく、廊下の向こうに立つ男が真正面からわたしを見据えた。

「返答を聞こう」
「ひとつだけ、質問をしていいですか?」
「隠し立てはしないと誓う」

細身だが、筋肉が無い訳でなく、非現実的な戦装束と、人間らしさの欠片も感じられない魔力量は、この距離にいるだけで感じ取れる。存在感だけで酔いそうなくらいだ。

「いいえ、と言ったのなら、貴方はわたしをどうしますか」
「潔く立ち去る、とはいかないだろうな」

恐喝ですか?と聞くのは侮辱だと思われるだろうか。現代で大事なのは報告・連絡・相談だ。ちゃんと質問に答えてほしい。わたしが言葉を選ぼうとしている間に、無言の時間が過ぎ、その気まずい時間に焦って考えがまとまらない。なんでこのひとはしゃべってくれないのだろうか?格上の人間にわたしみたいなザコが話しかけることが、どれだけ心的疲労をもたらすのか理解していない.......んだろうな。あたりまえだね。

「その、お断りさせてもらいます」
「何故だ?」
「あーっと、釣り合わないと思うんです」

“そういう扱い”を、あなたは過去に受けてきたんでしょう、なら、理解してほしい。世間がわたしたちをどんな目でみることになるのか。

「オレでは、お前を守る男として不足か?」
「ほ、ほんきでいってます?」
「そうか.......参考までに聞いておきたいのだが、どの程度の試練を」
「わたしのほうが不足なんです!!!」

わたしから視線をそらさないままで、カルナさんはゆっくりと瞬きをする。圧倒的強者が自分に興味をもっていて、かつ思考がよめないことがこんなに怖いのは、わたしがクソザコだからだろうか?いっておきますけど(いわないですけど)、貴方の目から、半径何キロを消し炭にするビームがでるのしってるんですから!!!!!銃口向けられるよりこわい!!!!!

「カルナさんの信奉者に殺されてしまいます、わたしが」
「オレの妻への敵対者は、即ちオレの敵対者だろう。オレへの信奉も尊敬も、お前を守ることより優先されることはない」
「妻じゃないです」
「む、すまない、先走った」

軽く返されると、冗談なのかな?って思っちゃうからやめてほしい。ひとを傷つける冗談のがまだマシだよ!本気か冗談かわかんない方がダメージがおっきいよ!

「えーと、あの、カルナさんのことそういう風にはとても思えなくて」
「それはオレがお前を諦める理由になるのか?」

それは恐喝ですか?(2回目)えっ、いや、諦めてくださいって言ってるつもりだったんですけど?どういう意味に受け取っているの?肯定したら諦めてくれるの?
疑問がつぎつぎと湧いてくるなかで、まあなるんじゃないですか、となんとか言葉にしたわたしに返ってきたのは「そうか」という一言だけだった。そしてそのまま、その場から立ち去ったカルナさんの後ろ姿を茫然とみつめるしかできない。え、諦めてくれた?


次の日、自室から出るとカルナさんがわたしを見下ろしていた。

「おはよう、名字名前」
「ん、え、おはようございます」
「名前を呼びあうことで親密度を上げられると聞いた」
「フルネームじゃあ上がらないんじゃないですかね……」
「得難い助言だ、感謝する」

わからない!!!!カルナさんのことがわからない!!!!


(まわりはさっさとくっつけと思ってる)




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