正気狂気が詰りあう
「はじめまして、引っ越してきた名前です」
「歓迎するよぉ、で、きみはなにができるの?」
「双子さんが決めてくれるって話だったんですけど、聞いてませんか?」
「名前ちゃんのロールなんて、ひとつしかないだろう?」
大人代表のランピーさんに挨拶をしていると、いつの間に来たのか、後ろからスプレンディドさんに肩を抱かれる。ヒーローってずいぶん距離が近いなあ。でもロールを決めてもらえるのならありがたい。
「名前ちゃんは僕のヒロインだよ!それ以外ありえない!」
「うーん、ギグルスと被ってない?」
「一ミリも被ってないとも!名前ちゃんは僕専用のヒロインなんだから!」
「まあ俺はなんでもいいけど」
「えっ、ちょっとわたしには荷が勝ちすぎてませんか?というかヒロインってなにするんですか?」
「僕のことを常に愛してくれていればそれで名前ちゃんは完璧だ」
くいっと顎を持ち上げてくるスプレンディドさんの目は真剣だ。えー出番少なそうだなあ。
「おいおいヒーローが名前に惚れたみたいだぞシフティ」
「人のモン盗むとはさすがクズヒーローは手グセが悪いなリフティ」
「名前ちゃんは今までもこれからも僕のヒロインだけれど?彼女の僕を見る熱い視線が見てわからないのかい?君たちはサングラスをとった方がいいな」
えっいやそんな見てないですけど。というかやっと知り合いにあえた。わたしがほっとしたのを見てわかったのか、双子の二人が同時にわたしにウインクをしてすぐ、お互いそっくりなニヤニヤ笑いをうかべながら、ヒーローさんとわたしの周りをぐるぐる回る。
「名前のロールは金持ちだよ。つまりこの俺とセット」
「正確に言うならこの俺とセットだな。学がねぇのがもろバレだぜシフティ」
「それは自己紹介か?リフティ」
「ああん?」「あ"?」
「ガラの悪い喧嘩を名前ちゃんの前でするのはやめてくれるかなゴミ犯罪者どもが」
「さすがイカれヒーローは口調がお上品だなあリフティ」
「人をつかまえてゴミだとよ、どうおもう名前?」
えっわたしにふるの?いやヒーローさんとは初対面なので、どういう態度が正解なのかちょっとわかんないんですけど。でもロールがお金持ちっていうのは素敵じゃない?大きいおうちとかもらえるの?
「え、えーっと、お金持ちやるのたのしそうだなーたのしみです!」
「名前ちゃん、君は僕のヒロインだろう?僕が言うんだから間違いない」
「めんどくさいから両方すればいいんじゃないの?金持ちでヒロイン。矛盾もしてないしいいでしょ」
「おいこのマヌケヘラジカ野郎、脳みそやっぱり腐ってんじゃねえのか?ふざけんなよ」
「テメェの大事な家、燃やしてやろうか?この腐れ木偶の坊」
「ええ〜〜〜出番ほしいからって人気者の俺に絡むとかやめてよね」
さすがランピーさん、手慣れているのか、襟を掴まれながらも余裕のあくびである。実際いちばん仕事してるしね。死んでるし殺しまくってる人の言葉の重みがちがう。しゃべりかたふわふわしてるけど。
「じゃあきみの家は最初だし、いちばん綺麗な家をえらんだげるね」
「ランピーくん、犯罪者の妄言を間に受けるのはよろしくないな」
「いやだったらあとから好きにキャラ変すればいいでしょ〜〜〜俺ははやく釣りにいきたいの!」
「あ、あの、スプレンディドさん、ヒロインも、精一杯がんばらせていただきますので」
「!あぁ!名前ちゃんならそう言ってくれると信じていたよ!」
なんでこんなにヒーローさんからの好感度が高いのだろうか?双子さんは盗みに入るカモとして歓迎してくれているのはわかるのだけれど。そんなにヒロインに飢えていたのだろうか?イケメンで強いんだからヒロインやりたがる女の子なんていっぱいいそうだけれど。
「名前の家が決まったらすぐに俺たちに知らせろよ」
「まってろよ名前!今日から一睡もできなくさせてやんよ!」
「今のは僕のヒロインに対しての犯罪予告だよね?正義を執行すべきだよね?」
「どーでもいいよ」
「じゃあ死ね」
「うわっ」
スパン、と双子の胴体が真っ二つになる。......た、ためらいがない。上半身だけになって呻く双子の頭を、スプレンディドさんの長い足が力強く踏みつけた。う、うわ、めりこんでるぅ......
思わず手をあわせるわたしをみて、ランピーさんがヘラヘラと笑みをうかべる。気にしなくてもいいのに、って気にしちゃう流れでしたよ......すごい責任感感じてるよ......
「名前ちゃん!見ててくれたかい!?」
「アッハイ」
「......?おかしいな、ランピーくん、ここは感動の抱擁シーンじゃないのかな?」
「照れ屋さんなんじゃない?」
「なるほど!!!!!」
うーん、うまくやっていけるかちょっぴり心配になってきちゃったぞう。自分が死ぬのはいいけど、自分のせいで人が死ぬっていうのは慣れないなあ。
(拷問したい系リフティと辱めたい系シフティが喧嘩してる間にヒーローが飛んでくるまでがお約束になる)
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