あなたのえがおにゆめをみる




藤丸くんに相談をして、バッチリ対策はしてきた。とにかく押す。押して押しておせば、向こうが引いてくれるよ!ということだったので、今日のわたしは恥をすてていきますぜ!

「ボンジュー!」
「あ、はい、こんちは」

微妙な顔のマンドリカルドさんが日本語で挨拶をかえしてくれる。よくわからないけれど、気まずげである。まあいつもこんなかんじなので、わたしはめげませんとも。

「あ、わかりました!bon jorn!」
「ア〜〜、ウン、ボンジョ.......あーそのさ」
「発音へたなのは許してください」
「いや俺もだし.........」

よくわからない謙遜をされてしまった。母国語なのに、ってアレ、もしやオック語ではなくオイル語だったか!?
"マンドリカルドさんのことはもちろん知っていますよ"アッピールのつもりが、墓穴を掘ってしまったのかもしれない。どうやって挽回をすべきだろうか。逸話を褒める?いやそれ、たぶんいちばん嫌がられる話題だよね!?

「マンドリカルドさんの母国語教えてほしいなあって、あの、ご迷惑でなければ?」
「フランス語ならもっといい教師がいるとおもいますけど」
「そうですね......すみません.......」
「あ"ーーーいや、教えたいんだけど、教えたいんだけどもな!?」

マンドリカルドさんは、しばらく視線をあちらこちらに飛ばし、最終的に、斜め右下の虚空をみつめながら小さな声を出した。

「俺、フランスの人間じゃねェから」
「シャルルマーニュ伝説の舞台って」
「自分でも覚えてないっすけど、タタール人かサラセン人か.......ようは野蛮人ですよ」

木刀を背負いなおしながら、失望しました?と自虐的な笑顔を見せるマンドリカルドさんは、放っておいてほしいのかもしれない。遠回しな拒絶なのかもしれない。でも今日のわたしはめげないので!

「あのじゃあ」
「まだなんかありますか」
「日本語にご興味は!?」
「な、いや、あるかもしれないっすね?」

き、気を使われているぅ〜〜〜!というか既に日本語を喋れているんだよな!?英霊召喚システムってすごいよネ!!!!!め、めげな、めげ、めげるよ〜〜〜!もう自分のいろいろがダメすぎて涙が出てきそうだ。

「すみません.......出直してきます........」
「えっ、あっ、じゃあまた........」
「はい、また.........」

マンドリカルドさんはおしゃべりが苦手なだけで、別に人嫌いなわけじゃあないよ!と藤丸くんが熱弁していたけれど、人嫌いじゃあなくても、わたしみたいな女は嫌いなんじゃあないだろうか?


____


「名前さんに挨拶してもらった.......」
「挨拶返した?」
「っす」
「よーーーし!」

マスターと名前さんは仲がいい。この狭い空間で、同郷っていうのは、それだけで仲良くする理由になる。まあその逆もありえるが。

「でも怖がらせたかもしんねぇ」
「じゃあ、身を引く?」
「まさか」

マスターに指摘されて、自分が笑ってしまっていることに気づいた。自分はそんなにポジティブな方ではないとは思うが、マスターが言うとおり、確かに俺はこの難題を楽しんでいるのかもしれない。

「あと、約束も取り付けたっす」
「この調子でがんばろー!イエーイ!」
「いえーい」

『また』って言葉がかえってきたってのは、そういうことだろ?あの子がまた、俺に話しかけてくれるのを、楽しみに待つとしよう。


(悲観的で楽天的で受動的で夢見がち)




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