さっさと破滅まで行こうよ




言葉もしっかり通じない国で、迷子になってしまった。ビルが立ち並ぶ都市を歩いていたはずなのに、いつのまにか、花が咲き乱れる庭の中にいた。気づいてすぐに、進行方向と逆に進んだのに、なぜか庭から出られない。

「あれ、なにしてんの?」
「すみません、迷子です」
「おれはねえ、水やりだよ」
「おつかれさまです」

ここまで会話をして、相手の青年が日本語をしゃべっていることに気づいた。派手な水色の髪、派手なピアス、そして遠近感がおかしくなる長身。うーーーん、絶対に日本人ではない。いや、そういう決めつけは現代社会にはそぐわない。国籍は日本かもしれないし、そうでなくても親戚か友だちに日本語をしゃべるひとがいるのだろう。

「たいへんなんだよね、広い庭って」
「庭師さんですか?」
「それは思いつかなかったなあ、家の庭にいるだけで仕事になるのはいいね」
「えーとつまり、ここはお兄さんの家の敷地内?私有地?」
「おれはランピーだよ。君は?」

言葉のキャッチボールがうまくいかない!しかもたぶん、これは言語の問題ではなさそうだ。
ふらふらと、こちらに歩み寄るランピーさんが、花壇の上を器用に横断........できてない!踏んでますけど!?あなたがお世話してる花が潰れてますが!?

「ランピーさん、下、下みて!」
「ねーなんて名前?」
「名字名前といいます!花が!」
「花ほしいの?いいよ〜」

わたしの手のひらほどの、大きく育った花を、何の躊躇いもなく引っこ抜いたランピーさんの屈託のない笑顔をみて、まあこのひとはこういう人なんだろうな、と受け入れることにした。これだけ大きなお庭がある家に住んでいるということは、きっとお世話とかは別のひとがやっているのだろう。ランピーさんは、ランピーさんなりに、ここを大事にしているはずだ、きっと、たぶん。価値観がちょっとお金持ちのひとなんだろう。

「お花ありがとうございます」
「いいよ、いっぱいはえてるし」
「あの、出口を教えていただけますか?」
「えっ、かえるの?これもあげる!これも!お花あげるから、あそんでいこうよ」

髪と鞄がお花だらけになってしまったわたしの手を引くランピーさんには申し訳ないが、今日は本当に、急いでいるのだ。

「じゃあ、また会いに来てくれる?」
「うーんと、地図か住所いただけますか?」

ランピーさんがちょっとだけ困った顔をするのをみて、もしかして、これはリップサービス的なアレだったのでは!?と自分の空気の読めなさで顔があかくなる。

「すみません.......また、時間があるときに来ますね」
「うん、じゃあ、待ってるね。名前覚えたよ、名前ちゃん」
「はい、ランピーさん、また」

花だらけになって、当然のように遅刻をして、まあ怒られて怒られたわけだが、この不思議な庭を忘れることはなかった。まあ、場所はもうわからなくなってしまったのだが。
そんなちょっと不思議な体験がさ、いつかあったんだよね。



病院のベッドの上、少し眠るね、と家族に言う。いってらっしゃい、と泣きながらいわれた。縁起でもない。こんな人生の重要な局面で、わたしが思い出していたのはあの庭だった。

「おーーーい!名前ちゃん!名前ちゃんだ!」
「あれ、ランピーさん」
「今日も迷子?それとも、おれに会いにきてくれたの?」
「うーん、たぶんですけど」

記憶がぼんやりとしている。でも今日は、以前とちがって、この庭もその先も、道がきちんとわかる。

「これから、お世話になります」
「ようこそ!きみのこと、まってたよ!」


(天国みたいに綺麗だったんだよ)


挿絵(おまけ)




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