はやく取り返しがつかなくなってよ




「あの……気づかれてるとおもうんですけど」
「無駄な自己申告など存在しないと教えたはずだが」
「、わたしアスクレピオス先生のことが好きで……」
「病気だな」

こちらを見ることもせずに言い切った先生の言葉に涙がにじむ。いや、わりと覚悟していたというか、予想できていた返事だけれど。

「ん」
「えっと……?」
「手のひらを貸してやる。6時間ごとに10分だ」

袖が捲られた状態で差し出された手のひらは、手袋もつけておらず、普段見ることができない白い肌があらわになっている。どうすればいいんだろう、今までにひとの手のひらを貸してもらったことがないから、正解がわからない。
まごつくわたしを怪訝な表情で睨みつけるアスクレピオス先生が、さっさとしろ、と低い声をだす。

「しつれいします……?」

とりあえず、握手をするように、軽くにぎらせてもらう。想像していたよりもあたたかい。わたしが手を握ったとみるやいなや、机に向き直ったアスクレピオス先生は、片手で器用に作業を始める。わたしの存在を1ミリも気にしているように思えない。話しかけるのは……ちょっと勇気がでない。けれど、先生の体温を片手に感じていると、それだけで嬉しいとおもってしまうわたしは、先生がいうように病気なのかもしれない。

「10分だ」
「あっはい」
「……よし、いっていいぞ」

わずかに目を細めた先生にいわれるがままに、診察室を後にした。



「余計なお世話かもしれんが」

アキレウスにしてはめずらしく、歯切れ悪くしゃべる。体調不良かと思い観察するが、みたところ健康そうだ。

「あれじゃあ逆効果だと思うぜ」
「あれとかそれとかじゃあわからん、ハッキリ言え」
「惚れてる男に手を握られたら、普通の女は勘違いするっていってんだよ」

何が言いたいのかが理解できずに、しばらく意味を考えていると、呆れたような声でアキレウスが続ける。
その気がねえのにああいうことすんなよ、可哀想だろ、とそこまで言われて、ああ本当に余計なお世話だと思った。無駄な時間を過ごしてしまったな、とおもいつつアキレウスに背を向けると、フードを掴んでくる。面倒くさい男だ、病気になってから話しかけろ。

「あれは治療じゃない」
「あん?」
「恋愛感情は病気の一種だが、放っておけば治る病気だ」

そう、何もしなければ、時間経過で彼女の僕への恋愛感情は消えていただろう。だからこそ、定期的な接触が必要だった。統計的にいって、情ってのは接触で育つものだからな。

「……あ”ーーー、マジの余計なお世話じゃあねえか俺!?」
「ふん、脳筋には理解できなくても仕方ないがな」
「というかお互い惚れてんのに恋人じゃねぇの?」
「恋人になったら破局というリスクが生まれるだろう、馬鹿か貴様?」

俺がおかしいのか?と困惑したようにつぶやく脳筋に、余計なことはするなよ、と釘をさして、名前との次の接触に向かう。
きっと今ごろ、彼女は僕のことを待って、落ち着かない気持ちでいるだろう。こういう駆け引きってものが後から後から効いてくるものなのだ。

「一回キスする方が早いと思っけどなあ」
「そっ、んなことできるわけないだろ!!!!!!!!」
「手ェ握るときに、ちゅってするだけだって、やってみようぜ?」
「黙れ早漏が」
「そっちは早くねぇよ!!!!」


(恋愛感情なんて信じられるか)




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