嘘からでたまこと
飲みの席でひさしぶりに慣れないお酒をたくさん飲まされて、わたしはちょっと頭が弱くなっていた。
「ちょっと名前、大丈夫?」
「えへへ、わかんない〜〜」
「アンタの彼氏が迎えにきてるわよ」
「かれし?……だれ?」
友だちが指差している男性に見覚えはないし、わたしの彼氏は迎えにきてくれるような殊勝な男ではなかったはずなんだけど。
「どちらさまですか?」
「ちょっと名前ちゃん飲みすぎやで。ほら、もう一緒にかえろ。ほな、みなさん失礼しますわ」
「ええだれ?」
「さよなら〜名字さんをよろしくお願いします」
わたしの彼氏?という男性に手を引かれて居酒屋をでる。そのまま駐車場に停めてあった車の後部座席におしこまれた。
「気持ち悪かったらこれに吐くんやで」
「はぁい」
車が動き出すと、振動でだんだんと眠くなってくる。結局、ビニール袋をもったまま、わたしは車の中で寝てしまった。
「っつう、あたまいたい……」
「名前ちゃん大丈夫?」
「あっはいって、え、どちらさまですか」
誰だこのイケメンは。記憶を辿ると、たしかにこのお兄さんについてったきがするけど、あれ、彼氏とかいってなかったか?
「も〜名前ちゃんまだ寝ぼけとるん?恋人の顔わすれたなんていわへんよね?」
「は?」
「ん?」
えっまってもしかしてヤバい人か、このお兄さん。
「どうしたん?頭いたい?」
「いやあ、あはは。そろそろ会社いっていいですか?」
「会社はもうやめたやろ?名前ちゃんのお仕事は、オレの奥さんやで」
「あーそんなかんじなんですか、なるほど?」
そのあと二人で朝ごはんをたべて、仕事にいくというお兄さんを見送る。
「ほな、いい子でお留守番してるんやで」
「はい、了解です」
お兄さんの車が見えなくなったところで、すぐに家を飛び出す。とりあえず、警察に……って、うそでしょ
周囲の建物は、普段見慣れたコンクリートではなく、まるでヨーロッパのような街並みがつづいている。いったいわたしはどこまで連れてこられたんだ
ウロウロしていると、おばあちゃんに話しかけられる。英語じゃない……わけがわからなくなって涙がでてきたわたしの手をひいて、大きな建物につれていってくれた。
Policia ってポリスか!よかった警察だ。警察の人に、つたない英語で迷子になった、と伝える。拉致されたとか伝えたいけどなんていえばいいかわかんないしな……
ちょっとまってて、みたいなことをいわれて小さな部屋で座っていると、部屋のドアが勢いよくあいた。
「名前ちゃんっ!」
「キャー!」
なんでお兄さんがここに……!抱きしめられて、身動きがとれなくなる。
「迷子になったんやって?怖かったなあ、一人にしてごめんな?今度から家の外に出るときはオレと一緒のときにしような」
「ううっなんなんですかあ、きづいたら日本じゃないし、お兄さんはいみわかんないし、かえりたいよぉ」
「ホームシックになっちゃったん?う〜〜んそれは、オレにもどうにもできへんなあ」
言葉は通じてるのに、話が通じない。結局、あなた誰なんですか。
「いい子いい子、ずーっとオレが一緒にいたげるからね」
英語もほとんど通じないこの場所で、頼れるのはこのお兄さんしかいないなんて、神さまはわたしにどうしろっていうんだ!
(諦めればいいんじゃないかな)
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