嫌われてな落ち着かんのか




「アーサーに好きな人間ができたらさ」
「名前が好きだよ、俺は」
「わたしの肉を食べさせちゃえばいいよ」

こっそり、ご飯の中に紛れ込ませて、化け物にしてしまえばいい。同意なんか取る必要ない。素知らぬ顔で、同情してあげればいいよ。あなたはそういうの、得意でしょう?

「人魚の肉なんか食べさせても、人間は死ぬ」
「あれ、もしかして、もうやったことあるの?」
「.......」
「あーあ、だからアーサー、お母様とかから嫌われてるんだ」

私が笑うと、アーサーは、俺が言い出したわけじゃない、ともごもごと言い訳をした。昔の王様に、人魚を狩ってこい、と命令されて、本当に持って行ったらしい!適当な肉を人魚の肉だと言って、誤魔化せばよかったのに。アーサーは本当に、まっすぐで、他人に嫌われる才能がある。

「俺はそんなに嫌な奴か?」
「うん」
「だから名前は俺にいじわるを言うのか?」
「いじわるいった?」
「自分を人間に食べさせろなんて、酷いじゃねえか、いじわるだ」

拗ねたような声を出すアーサーは、子どもみたいだ。かわいいねえ、とアーサーの頬に手を伸ばすと、白い肌を真っ赤にさせるものだから、不思議な男だ。
純粋な瞳のままで、長い時間を生き、他国を侵略し、簒奪し、大勢の人間を殺してきた男。でも、わたしはこの男が嫌いじゃあない。

「心配して言ったんだよ、アーサーのこと好きだから」
「名前は俺が好きなのか?俺みたいな嫌な男を?」
「人魚っていうのは、みんな男の趣味が悪いんだよ」
「俺も、名前が好きで、だから、」
「あ、そこは許してないからね」
「う"っ」

しゅんとした顔をしながらも、アーサーは本当の意味で、反省なんてすることはないだろう。わたしを海から連れ去り、この狭い部屋に閉じ込めていることを、自分の当然の権利だと思っている。愛しているから、といってわたしの幸福を踏みにじる。そういうやり方しかしらないのだろう。酷い男だ。控えめに言っても、鬼畜野郎だ。

「わたし、死ぬのがいちばんイヤ。死にたくない。動物みたいだって笑う?」
「笑わないよ。笑うはずないだろ」
「わたしを人間たちから守ってね、アーサー。どんな方法を使っても」
「ああ、もちろん、俺のお姫様」

わたしがアーサーに感じているこの愛情は、生存本能から発生しただけの偽物だろうか?まあ、そうだとしても構わない。人間様は生き汚いこと、正しくない生き方を恥だと思うのかもしれないが、あいにくわたしは人魚なもので。自分の恋人がクソ野郎でも、まあ、愛してくれているのなら、そこは妥協しようじゃないか。

「名前、名前、俺の名前」
「うん、なあに」
「なんでもするから、キスしてくれよ」

なんでも、ときたか!アーサーはどんな無理難題も、犠牲を払って遂行するだろう。そういう男だ。もちろん、その犠牲には彼自身は含まれないのだろうけど。

「いいよ、手だして」
「手か.......」
「なに?」
「なっなんでもない」

わたしが笑うと、安心したように、アーサーも微笑んだ。


(海の広さももう覚えてない)




感想はこちら



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -