きみには最良のものの他は必要ない




「こ、ろさないで」
「バトルってこういうもんだろ?」
「もうわたしの、負けだから」
「お前はまだ頑張れるよなァ?名前のこと守るんだよな?」
「キバナくん、おねがい、」

さーちゃんが、ボロボロになって、死にかけている。わたしのために傷ついている。わたしのせいで傷ついている。わたしのポケモンなら、つよくなければいけないと、キバナくんが言う。どんな相手にも、キバナくんにも勝てるようなポケモンじゃなければ、わたしの友だちにはなれないと。

「っ回復しないと」
「ああ、待っててやるよ」
「バ、バトルはもう終わりたい、おかねわたすから、」
「名前、逃げられないバトルもあるんだぜ。オレさまは優しいからいいけどよ、危ない相手はいっぱいいるって、そう教えてやったのも忘れちまったのか?」

回復手段は、あとキズぐすりがふたつと、げんきのかけらがひとつだけだ。もう一度回復させる?またすぐに倒されてしまうとわかっているのに?
でも、それをいうのなら、さーちゃんを譲ってもらったときに、もうわかっていたことだ。同じことを何回も繰り返している。キバナくんに許してもらっていないのに、さびしいからって、さーちゃんを受け取ってしまった。

「わ、たしがまちがってた、ごめんなさい」
「ン?」
「さーちゃん、やっぱり、わたしには飼えない」
「へー、じゃあどうすんのそいつ?」
「キバナくんに、なんとかしてほしい」

おねがいします、と頭をさげる。結局わたしには、キバナくんしか頼れるひとはいないのだから。
そして、キバナくんは、いつだってわたしに甘いのだ。

「もちろんなんとかしてやるよ!良いトレーナーを見つけてやるからな」
「ほんとに?」
「じゃあボールちょうだい」
「回復していい?」
「いーよ」

キバナくんがじっと見ているまえで、さーちゃんをなんとか回復させる。さよならをする前に、何か言っておきたいと思ったけれど、文句の鳴き声ひとつこぼさなかったさーちゃんに、わたしが何かを言う資格はないように感じた。

「よしよし、名前はいいコだな〜」
「うん」
「ヘタなポケモンなんていなくても、オレさまがちゃあんと、まもってやっから」
「うん」

よわくたっていいよ、って言葉に、最初ははげまされた。ゆっくり頑張ろう、と思った。
でも、キバナくんが許してくれるのは、わたしだけなのだ。わたしがよわくても怒らないけれど、わたしの友だちがよわいのは絶対に許してくれない。

「どーした?バトルに負けてごきげんナナメか〜?」
「べつに」
「名前は悪くねぇって、名前の指示で負けたやつが悪いんだからよ」

キバナくんは、本当は、どんなポケモンにもやさしいひとなんだって、わかってる。たぶん、きっと、ぜんぶわたしのせいなんだ。みんな、キバナくんは悪いひとじゃないっていってる。
......じゃあ、そのキバナくんが褒めてくれるわたしはどうなんだろう、なんて、かんがえすぎると苦しくなるから、もうぜんぶあきらめるべきなのだ。わたしはひとりぼっちじゃない。キバナくんがいるじゃないか。

「ねえ、キバナくんはわたしの友だちだよね?」
「おう」
「ずっと?」
「ずっとだよ」


(友だちは選ばないと)




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