ぼくは絶対きみのともだち




「なあ、そろそろ諦めようぜ」
「次は勝ちます!」
「いや無理だろ、大人しく金で買え」
「このわたしに、金でスイーツを買えと?」
「そうだよ」

頬杖をつきながら、弱々しい言葉を吐き出すキバナくんの顔面に、フォークを向けて宣言する。覇気もなにもないこの男に教えてやろうではないか、強者の生き方というものを!

「笑止千万!甘味は力で勝ち取るものなり!」
「いま食べてるケーキはなんなんだよ」
「キバナくんからの貢物でしょ、ありがとう、とても美味しいです」
「そりゃあよかったな」

そもそも、申し込まれた挑戦は全て受けるのが、ポケモントレーナーというものだ。バトルカフェに来て、バトルもせずお金を支払うなんて、そんな恥ずかしい真似はプライドが許さない。

「でもなあ、毎日挑戦することもないだろ?」
「店主の方に、明日も来ると約束しましたので」
「このキバナさまと会うことよりも大事な約束なのかよ」
「キバナくんとは毎日会っていると思うのだけれど」

ここしばらく、キバナくんとお話しをしていない日を、思い出すほうが難しい。不思議な巡り合わせもあるものだ。わたしたちって、周囲が言うよりも気があうのかもしれない。

「おれサマが!わざわざ!会いにきてんだよ!」
「そうなの?気がつかなかった」
「気づかなかったか!じゃあしょうがねえなあ!クソ!」

顔面を手で押さえているキバナくんを見ていると、キバナくんはとてもお顔が小さいことに気がついた。キバナくんはわたしのことをなにもわからない世間知らずのような扱いをするが、きちんと人並みの観察力はあるのだ。今回のことだって、もっとヒントをくれていたら、ちゃんと自分で気がついていた。

「でも、キバナくんのそういう厳しいところ、わたしはすきです」
「そういう大事な情報はもっとわかるように言え!なんだ厳しいところって!何の話だよ!?」
「いやだから、厳しいじゃないですか、わたしに」
「さっきのは別に怒ってないだろ!?」

怒っている?何の話をしているのかちょっとよくわからない。わからない、が!連続で自分の不出来を認めるのは嫌なので、キバナくんが答えを言う前に、片手をあげて制止する。

「その前に、ヒント制の導入を要求します」
「それでいいから、順番に論理立てて話をしてくれ、頼むから」
「じゃあヒントその1」
「.......」
「.......」
「.......」
「ヒントは?」
「おれがヒント出すのかよ!なんのヒントだ!!!!!」

あれ、もしかして、わたしが話を理解していないことを、キバナくんは理解していない?それならまったく問題はない。失敗はひとに知られなければ失敗じゃあないのだ。

「なんでもないです。わたしにミスはありませんでした」
「結局、名前はおれサマのどういうとこが好きなんだよ」
「好きなところ?」
「そう、好きなところ」
「やさしいところかなあ」
「クッソ!そうやって人を惑わして楽しいか!?」

人聞きの悪いことを公共の場で言わないでほしい。ちゃんと答えたじゃないか。でもわたしは心が広いので、大人としての対応をする。

「じゃあもっと簡単な言葉を使います。キバナくんはしょうがないひとですね」
「具体的に、事例をあげて、大人にもわかる言葉を使ってくれ」
「わかりやすく言うとですね、ケーキを買ってくれるところが好きです」
「おーわかりやすいな、おれサマはお前のことが心配で仕方ねェよ」

なぜいまの情報から、わたしが心配だという話になるのか。ケーキは命より重くないぞ、と説教のようなものを始めたキバナくんは、わたしの年齢も覚えてくれていないのだろうか。

「キバナくん」
「なんだよ」
「わたしはもう大人です。キスをしても許される年頃の女性ですから」
「ン〜、ちょっと待ってくれ、考えるから」
「なにを考えることがあるんですか!もう!」
「よっし!わかった、完璧に理解した」

キバナくんはおもむろに立ち上がったと思うと、わたしの顔に手を伸ばす。わたしが疑問に思うより早く、キバナくんの顔が近づいてきて、また離れた。

「おかしいな......」
「ん、んん〜その反応はおれサマの予想に入ってなかったなァ!」
「あっ!わかった!手のサイズだ!キバナくんは手がわたしよりも大きい!」
「なあ、キスは?おれサマの精一杯の勇気は無視?」
「あっ違うこと考えてて気がつかなかった」
「初めてのちゅーに気がつかないとかなくないか!?」
「今のはなし!もう一回おねがいします!集中するから!」
「キス自体はオッケーなのな......」
「え、うん、キバナくんのこと好きだし。あれ、もしかして、キバナくんもわたしのこと好き?」

すごいことを発見してしまった。キバナくん知ってた?と聞くと、知っていたらしい。うーんさすがキバナくんだ。わたしたちはもしかすると、ガラルで一番洞察力のあるカップルかもしれない。

「えへ、なんかすごいはやさで、キバナくんの恋人づらしちゃった」
「ん?それは全然気づかなかったな、名前の知り合い全員に報告させてんのに」
「いま頭の中でしたので、誰も気がついてないと思います。内緒にしててください」
「脳内かァ〜......」

そのあと、手を握って帰り道を歩いたが、やはりキバナくんの手はとても大きかった。どうりで、顔が実際よりもやけに小さくみえたはずだ。何回もキバナくんと手をつないでいるのに、今までぜんぜん気が付かなかったなあ。


(このあと、告白はされてないから恋人ではないですよね?と一悶着ある)




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