きっとこの腕の中にかえってくる




お願いがあるんだけど、いいかな。キバナくんが、いつもどおりの笑顔で言った。もちろんいいよ、なんでもするよ。心臓がドキドキいっているのを、わたしは隠したつもりだったけれど、バレているのかもしれない。
キバナくんはポケモントレーナーとしてわたしの何倍も何百倍も格上のひとで、友だちでいるのに、いつも負い目のようなものを感じていた。だから、キバナくんがわたしにお願いをしてくれるのは、本当にうれしかった。

「うーんとさ、練習したくて」
「えっと、わたし?」

自慢じゃないが、わたしのポケモンは弱い。キバナくんの試合の練習相手はとても務まらないだろう。わたしの表情があんまりにもあんまりだったのか、キバナくんが堪えきれないように笑う。

「き、キバナくん......」
「いやいや、お前にしかできないよ、たのみたい」
「じゃあやる!」

ありがとな〜、と頭を撫でてくるキバナくんは、わたしのことを子ども扱いしているようにしか思えない。一応幼馴染なんだし、もっと対等なかんじで接してほしいって、とても言葉には出せないけれど。そんなことを考えてるその瞬間に、名前はおれサマの親友だよな?と聞かれて、心が読まれたのかと焦る。

「いや心は読んでないけど」
「よんでる!?」
「表情は読んでるな!」
「な、なるほど」

どっちにしろ普通に恥ずかしいので、できればやめてほしい。わかっちゃうのはしょうがないけど、わかってないふりをしていてください.......小声でお願いするわたしの声に、わかった気をつける、と言ってくれるキバナくんに申し訳なく思う。いつもこちらがお願いしてばかりなので、できることがあるのなら、絶対にやっておきたい。

「首を絞めたいんだけど、あ、いや、ポーズだけ」
「ええと」
「手のひらをこう輪っかにして、名前の首に添えるだけ、苦しくないから」
「ポーズだけ......」
「そうそう、ポーズだけ」

キバナくんが実際に作ってみた輪っかの大きさは、わたしの首よりもかなり大きい、ように見える。ためしに自分の首を自分でつかんでみたけれど、わたしの手のサイズでも余裕がある。

「まあ、それなら、いいかな?」
「オッケー、じゃあベッドに寝っ転がって、仰向けで、うんそう」
「ふりだよね?ほんとにはやらないよね?」
「おれサマを信頼してくれ」

そう言われたら、今更断るなんてできない。横になっているだけ、うんそれなら、わたしにもできそうだ。ベッドの上だし、二、三時間くらいなら余裕で寝っ転がっていられるとも!.......これは自慢するようなことじゃあないな。
ベッドの上に横になったわたしの上に、キバナくんがまたがる。少しだけ恥ずかしいな、と思うより早く、キバナくんの手が首に伸びてきて、圧迫感に自然と喉が震える。いや、圧迫はされていない。添えられているだけ。覆いかぶさられて、首をつかまれている、それだけで、どうしようもなく緊張している。

「ぅ、あの、」
「なに?」
「なんでもない......」

ふつうにしゃべることはできる。その程度の圧迫。やさしくふれられているだけ。キバナくんはやさしいひとだし、わたしがやめてほしいといえば、きっとすぐに終わる。だからこそ、こんなこともできないなんて、ぜったい思われたくない。

「名前さ」
「っなに?」
「おれサマのこと好き?」
「うん」
「どういう意味で?」

どういう意味だろうか。わたしたちって、どういう関係なんだろうか。キバナくんは、どういう意味で、こんな質問をしているのだろうか。

「キバナくんから言ってよ」
「え〜はずかしいからヤダ」
「わたしだって恥ずかしいよ」
「へえ、そうなんだ」

心臓の音がうるさい。いつもどおりの、キバナくんの顔が直視できない。目をそらそうと思うたび、首に当てられたキバナくんの手のひらを嫌でも意識してしまう。首が熱くはなっていないだろうか。そろそろ、やめてもいいんじゃないだろうか?わたしはもう結構がんばったんじゃないんだろうか?

「やっぱこわいか?やめるか?」
「キバナくんが飽きたならやめてもいいよ」
「じゃあもうちょっと頼むわ」
「うん......」

頼まれたのなら仕方ない。キバナくんがわたしにお願いをするなんて、めったにないことだ。これはチャンスだ。高く恩を売りつけてやるのだ。わたしはキバナくんのいちばん最初の友だちなんだから、昔はわたしの方が身長も高かったし、怖いなんて、そんなことあるはずない。だって怖くないし。

「これ、キバナくん楽しいの?」
「おう」
「なにが楽しいの?」
「名前の顔みるのが」
「いつもみてるじゃん」
「そうか?初めてみるかおしてるぜ」
「もうやめる!!!!」
「あ〜ざんねん」

キバナくんはパッと手を離し、身軽にベッドから飛び降りる。お茶いれてくるな〜と部屋からさっさと出て行ってしまったキバナくんに対し、怒りを表す前に逃げられてしまった。でもよくよく考えると、怒るようなことなんてなかった気もする。あれえ?


(意識してちょーだい)




感想はこちら



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -