めくらのふりにも才能がいる




わたしはよわむしだ。うまれつきそうだったかどうかは、もうわからないけれど。でも、 わたしがこんなんになっちゃったのは、絶対に、ダンデくんのせいだ。

「そういう思考回路をまずやめるべきですねアンタは」
「だって」
「ダンデに責任を問いただした瞬間、言い値で買い取られますよ」

もちろん責任はとるとも!って嬉々として自立の邪魔をしやがりますよ、まちがいなくね。とネズさんが怖い声をだす。なんでそんなに怖い声をだすんだろう、と半泣きになるわたしに、おおきなため息をしたネズさんは厳しすぎる。わたしの相手なんて面倒くさいとおもってるんだ。

「いつもそうやってピーピー泣いてるんですか」
「ダンデくんは名前は泣いてもいいぜっていってましたもん」
「泣くなっていう人間の方が多かったでしょうに」

それはたしかにそうだ。なにもできないひとなんていないよ、がんばってみようよ、やろうとする気持ちが大切だよ。たくさんのひとが、おなじことをわたしにいった。ダンデくんよりも、よわいひとたちが。
わたしより、ネズさんの言うことのほうが正しいはずだ。でも、ダンデくんのいうことは、ネズさんよりも正しいはずで。よくわからなくなってきた。なにが間違っていて、わたしはどうするべきなのか。

「名前」
「ゲッ」
「名前を見ていてくれてありがとう!あとは俺に任せてほしい」
「子離れするのも愛のうちですよ」
「ははは、なんのことだ?」

おーこわ、と引きつったかおでつぶやくネズさんにお別れをいって、ダンデくんに手を引かれて家までの道をすすむ。ショッピングをする気分にはなれなかった。ダンデくんと一緒だと、ひとの視線が煩わしくて仕方ない。

「なあ、ネズとなんの話をしてたんだ?」
「むずかしいはなし」
「難しい問題なら、俺の役割だ、そうだろう?」
「うーん」

それでいいはずだった。そういうふうに生きてきた。わたしの世界は、ダンデくんだけだったから。でも、世界にはおもったよりも、大勢のひとがいた。だから困ってしまっている。とぎれとぎれ、言葉に詰まりながらのわたしの説明を聞いたダンデくんが、眉を下げて、悲しそうに声をだした。

「たぶん、いまの世界は、名前には広すぎるんだな」
「そうなの?」
「自然の中で生きるのがしあわせなのも、小さな部屋で静かに生きるのがしあわせなのも、みんなそれぞれなんだ。恥ずかしいことじゃあない」
「でもわたしは」
「むかしに戻ろう。雑音なんて無かったころに」

金色の瞳がわたしを見下ろしていた。むかしっから、この瞳が羨ましくて仕方がなかった。美しいこの瞳をみていると、ああたしかに、わたしはダンデくんみたいにはなれないんだって納得してしまう。わたしたちは成長して、ダンデくんがいったとおりになった。ダンデくんはチャンピオンになって、わたしは何にもなれない。

「でも、きっとみんな許してくれないよ」
「名前のしあわせより大事なことなんてない」

ダンデくんはすごいひとだ。きっと、あの秘密基地みたいな、完璧な場所をみつけてくれる。えいえんに、わたしのために生きてくれる。自分のすべてを、わたしに与えてくれる。

「......わたし、ほんとは、チャンピオンになりたい」
「無理なんだよ名前、それはできないんだ」
「えへへ、しってる」

すまない、とダンデくんが掠れた声でいった。その謝罪のいみが、わたしにはよくわからなかった。だから、聞き間違いだったのだ、きっと。


(残酷なのは現実か恋心か)




感想はこちら



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -