きみにだけ翼があるということ




「名前、ここにいたのか」
「いちゃだめなの」
「だめじゃあないよ。オレも隣に座っていいか?」
「......ダンデくんの秘密基地じゃん、なんでわたしに聞くの」
「オレが名前にあげたんだから、ここは名前の場所だよ」

綺麗で、静かで、暗くて、ダンデくんが秘密基地にするには、ぜんぜん似合ってない。はじめてダンデくんにここへ連れてきてもらったときに、そう言ってやった。いやな子どもだ。でも、そんなわたしに、笑顔で秘密基地をゆずってくれたダンデくんは、もっといやな子どもだった。

「ああ、そうやっていると、いつか瞳が溶けてなくなってしまいそうだな」
「べつに、だれもこまらないもん」
「うん、そのときはオレが名前の目になるとも」
「ダンデくんは目立つからいや」
「じゃあ二人で誰にも見つからない場所で暮らそう」
「やだよ」
「やだかあ」

そんなことになったら、またみんながわたしを叱るだろう。ダンデくんに迷惑をかけちゃだめでしょう、って。わたしはワガママ言ってないのに。ダンデくんが勝手にやってるだけなのに。
何をしても、どんな時でも、正しいのはいつでもダンデくんだ。ダンデくんはずるい。才能があるからって、みんなに褒められて、みんなに優しくしてもらっていて、友だちがたくさんいる。そんなのは不公平だ。

「わたし、がんばったのに、おばあさまが怒ったんだよ」
「そうか、それはつらかったな」
「いつもと違うことしたから、がんばったから失敗したのに」
「名前は頑張らなくてもいいのになあ。なぜかみんな、それを理解してくれない」

わたしだって、本当はいい子になりたい。チャンピオンにだってなりたかった。でも、弱いんだからしょうがないじゃないか。神さまが、わたしに悪い子の役を押し付けてきたんだから。

「わたしが何もできないのは、わたしのせいじゃないもん」
「いいんだよ名前。オレたちには、それぞれ役割があるんだから」
「ダンデくんは、わたしにやさしくするべきなんだよ。だってわたしは弱いんだから」
「うん、名前はすごく弱いから、強いオレが優しくするんだ。当然の権利だぜ。そうしないと生きられないんだから」

わたしは、ちいさいころから、何をやってもうまくいかない。間が悪くて、要領も悪い。でも、その代わりに、ダンデくんがいてくれた。ダンデくんに迷惑をかけても、わたしが怒られる謂れはない。強いひとは、弱いひとを助けるべきなんだから。

「名前は可哀想だな。何もできないんだから」
「そうだよ、かわいそうなんだから、ダンデくんの大事なものはわたしがもらうから。返さないから」
「泣かなくてもいい。名前が欲しいものは、全部オレが手に入れてやるからな」
「.......いいなあ、ダンデくん、ずるいなあ」
「名前、名前のしあわせは、オレの人生の中にしかないんだよ」

どこにいっても、どんなに探しても、ダンデくんがゆずってくれるしあわせのほかに、わたしのしあわせは存在しない。悲しい人生だ。寂しい人生だ。ダンデくんとの二人きりの人生だ。

「わたしのために、しあわせをいっぱい集めてね、ダンデくん」
「もちろんだとも」
「それを全部わたしにちょうだいね。いじわるしないでね」
「うん、オレが君を世界で一番幸福にしてみせる」

ボタボタ、と涙が次々とこぼれていく。わたしが泣く理由を聞かないのは、ダンデくんだけだ。今まで一度だって、涙が流れる理由を尋ねようとはしなかった。たぶんダンデくんは知っていたのだろう。わたしみたいに弱い女が、ただ生きるということがどんなに苦しいものなのかを。

「かわいそうに、名前、オレがついているからな」


(希望を捨てなきゃ、到底幸福なんてやってこないぜ)




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