君にあこがれてるやつ全員頭わるい




「うわどうしたの名前、顔色やばいよ」

「吐きそう......」

「えー保健室いきな!先生にはいっとくから」




空条承太郎に告白された。
こんなに惨めな女がこの世にいるだろうか。こんなにひどい仕打ちが、どうしてできるのだろう。なんで、幸せそうに生きているあの男のために、わたしが苦しまなくてはいけないのだろうか。

保健室にいた先生は眠そうな表情でこちらを見つめていた。体温計を手渡されるがままに受け取り、わたしはソファに座った。そして、体温計のアラームが鳴るのも待てずに、目からボロボロと涙がこぼれてきた。セーラー服の袖を目に当てながら俯向くわたしに、保健の先生が静かな声で「帰りたいのなら、理由は考えてあげるわ」といった。名前は知らないけど、しゃべったこともないけれど、いい先生だなあ、と思った。

わたしは空条承太郎が嫌いだった。だって、あの男はわたしのことを嫌いなんだと思っていたから。わたしみたいな、なんの取り柄もない、口を大きく開けて笑うような下品な女のことを、下に見ているんだ、と決めつけていた。
それがどうだろう。あの男は、わたしのことを、好きだといったのだ。いつも彼のまわりにいて、彼自身が邪険にしている、たくさんの少女たちの誰より醜くて、浅ましいこのわたしのことを!
勝手に見下されていると思って、勝手に傷ついて、勝手に嫌って、わたしは絶対にJOJOなんて呼び方はしない、なんて意固地になっていた、わたしの心をどう慰めればいいのか、もうわからなかった。ああ、わたしは、今になってなお、自分の心の救いをなによりもとめている!いやしい人間だ、そんなことはわかってる。わかってたから、あなたのことが嫌いだったのに!

「あらJOJO」

「......泣いてるのか」

「そっとしておいてあげて」

「俺の問題だ」

先生の声を振り切って、空条承太郎の足音が迫ってきている。一歩、二歩。足が長いから、歩幅も広い。そんなことが真っ先に頭に浮かぶ、自分がいちばん嫌いだった。

「名前」

「しらない、かんけいない」

「お前は俺のことなんか興味ないだろうが、」

「っなんにも!なんにもしらないくせに!」

「教えてくれ」

言えるはずがなかった。だって、言ったら、わたしは今度こそ、永遠に、彼から嫌われてしまう。わたしが空条承太郎に言えるのは、見栄と嘘だけ。本当のことなんかなんにもない。そんな女に、こんなに優しい目をするなんて、この男は本物の馬鹿野郎だ。

「わたしはあなたのこと好きじゃないの」

「そうか」

「ねえ、あっちいってよ、あっちいけっていってよ」

「そばにいてくれ」

それ以上はもう言葉にならなかった。嗚咽が止まらない。汚い泣き方だ。こんな顔、このひとにだけは、一生見せたくなかったのに。

「自分でも酷い男だと思うがな」

JOJOは声も素敵だと友達がいっていた。目をつむっていても、自分の泣き声が大きくても、空条承太郎の声は聞き取れる。

「捻くれた女が、真っ直ぐに視線を寄越すのがたまんねぇんだ」

「っぇ」

「泣きそうなくせして、目ェそらせないとこ、可愛いと思うぜ」

顔を上げると、空条承太郎の顔がすぐ近くにあった。数秒見つめ合って、何を言われたのか理解して、最初に感じたのは屈辱ではなかった。もうその時点で、たぶんわたしの負けだ。

「ふっ、安心したか?」

「っせ、性格やっぱり最低じゃん......!」

「お似合いだろ」

「っうぇ、」

「っと、泣くな、今のは俺が悪かった」

釣り合いがとれてるとは今でも思えないけれど、好きだとはまだ口にだしては言えないけれど、この酷い男からの告白を、やっとわたしは、心の底から嬉しいと思った。


(性格悪い女と良い性格の男)




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