愛したったきりそれっきり




わたしなりに、いろいろと考えて、悩んで、言葉を選んだつもりだ。まず簡潔な主張、論理的な理由、最後に謝罪。彼は変人だが、一定のルールに従って行動する変人だ。だから、嫌味を言われるくらいはするかもしれないが、受け入れてもらえると思っていた。

「おかしいだろ」
「えっと、どこらへんが?」
「ぼくときみの関係性は歪だっていってるんだ」

それはさっき、わたしが言ったことじゃないだろうか?いやもう少しマイルドな表現だったけれど。わたしが戸惑っていると、露伴くんは指先で机をノックし始める。イラついているようだ。仕切り直すべきだろうか?

「きみは落ちこぼれ、まあよく見積もれば凡人だ」
「あ、うん」
「だからこそ、ぼくみたいな人間に惹かれる」
「うーん?」
「特別な人間と関わりを持って満足する、自分自身を高めることもせずにね」

めちゃくちゃにえらそうな言葉だが、言っているのが露伴くんなので、あんまり怒りは湧いてこない。実際にこのひとは天才だし、努力家だ。そして、自分に素直であることが、彼の才能の根源でもある。

「きみは家事も仕事もせずに遊び暮らし、ぼくの稼ぎを把握もしてないのに多額の小遣いをせびり、まともにできてるのはセックスの相手くらいだ」
「そういうことを、あの、おおきい声でいうのは」
「だが、これはきみの望みだろう。名前が望んだ関係だ、これは」

相変わらず直球なセリフだ。たしかに、今の生活環境は理想的なものだ。好きな時間に起きて、好きなものを食べて、勝手に服が洗濯されていて、それに怒られることもない。でも、それは学生のころのわたしの理想だ。今のわたしは、大人として生きるべきだと思っている。今の暮らしに、本当の自由が見出せない。

「ぼくのそばにいるのは、ぼくからそれを許されているのは、いい気持ちだったろう?」
「そういうつもりで付き合ったわけじゃ」
「いや、そういうつもりだった。きみは優越感のために、ぼくを利用していた」

そんなつもりはなかった。そんなつもりは、本当になかった。だって、もしそうなら、露伴くんがわたしと今の今まで、付き合っていたはずがない。命よりプライドが重いような、露伴くんのようなひとは、世界にはそんなに多くない。だから、自尊心のためだけに、露伴くんみたいな男と付き合ったりなんて。

「酷い女だよお前は、何も生み出さず、ぼくの足を引っ張りつづける」
「もういいです、それでいいから、別れようよ」
「イヤだね」
「なんで?」
「わからないんだろうな、きみには理解できないだろうぜ、名前」

苦虫を噛み潰したようなかおで、露伴くんが、心底いやそうに言葉を続ける。

「ぼくはきみが好きなんだ」
「え、いや、おかしくない、それは?」

今までのあの酷評はなんだったのだろうか?あと、表情とセリフが全くもってあっていない。罰ゲームで言わされているような声をしている。

「好きでもないのに、お前みたいな凡人の世話を焼いたりするかよッ!クソがッッッ!!!」
「ええ.......」
「お前ができるのは、ぼくに扶養されること、ぼく以外とセックスをしないこと、それだけだ。他には何も期待してない」
「そういうこと言われると傷つく.......」
「ぼくのほうが万倍億倍、傷心してるんだよッ!想像力ってもんがないのかきみには?」

最初に別れを切り出したときには、もっともらしい理由を語ったが、露伴くんがここまでズバズバいうのなら、わたしも言いたいことを言わせてもらう。そもそも、わたしよりわたしの分析ができてそうなので、今更付け足しても、これ以上怒ったりはしないだろう。

「やっぱ、お金より愛情が大事かなって」
「ぼくに今ここで刺し殺されたいってことか?」
「露伴くん、口が悪いから、すごいストレスかんじる、優しくしてほしい」
「甘い言葉を吐けってか?ぼくがお前に?」
「うん」

露伴くんが百面相をしている。基本的に即断即決の露伴くんにしては、とても珍しい。口を開けて閉じてを繰り返し、ここまで焦らされると、何を言ってもらえるのかと期待が高まってしまう。わたしが期待していることがわかったのか、頬を少しだけ赤くした露伴くんが、咳払いをする。

「好きな女に甘い言葉を使うのは、ぼくのキャラじゃあないと思うんだが」
「露伴くんも、キャラとか気にするんですね」
「気にするのはお前の方だろッ!」
「え、わたしに気をつかった結果として暴言吐いてたんですか!?」

あまりの突飛な思考回路に、うそ〜〜〜、と呆然としてしまうわたしに、露伴くんが赤い顔のままでキレちらかしてくる。『恋人になっても甘い言葉なんて言ってくれないよぉ』ってわたしがよく友人に自慢してた、っていつの話してる、というかなんで知ってるんですか!?

「じゃあ、これからは『わたしにだけは優しい』で自慢するので」
「開き直ってきたなお前」
「キツイ言動する恋人を好きでいつづけられる方がおかしいと思うんですけど」
「ぼくに対する嫌味か?まだきみのことが好きなのがおかしいって?その通りだよッッッ!!!!!」

なんだか、わたしが露伴くんに対する愛がないのに付き合っている、というのが事実みたいな前提で話がすすんでいるのが、あんまり納得がいかない。わたしはそんな悪女じゃあないっていうのに。

「すきですよ、露伴くんのこと」
「別れたいのにか?」
「じゃあ別れないので」
「......もうそれでいい」
「露伴くんも、もっとわたしに優しくしてください」
「断固拒否する」

露伴くんの方こそ、わたしのことがすきとか嘘でしょ!?


(愛を口に出してしまったら、二度と戻れなくなる)




感想はこちら



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -