僕は彼には為れないけれど




先輩(?)さんが起きそうになるたびに、安眠の魔法をかけ直してはや二日目。いやもう三日目か?わかんなくなってきた。殺されるかもしれないという緊張の糸もゆるんできて、そろそろわたしも眠たくなってきている。あとお腹すいた。
一度だけ能井さんが部屋に来たが、眠ってると言ったら素直に引き下がってくれた。ついでに足も直してもらえないかな〜と頼んだけれど「先輩が良いっていったらな!」と言われたので諦めました。なのでわたしはずっとベッドの上でわんちゃんと遊んでいる。わんちゃんかわいいよわんちゃん。

「心!いつまで恋人といちゃいちゃしているつもりだ!」

「おいこら煙!先輩は名前ちゃんと寝てるっていってんだろ!」

「何時間ヤるつもりだ!というか段階を踏め!不潔だぞ!」

大きな音を立てて開いたドアから出てきたのは、天下の煙様だった。ひええ本物?マジで?煙様の部下に魔法かけてるなんて知られたら殺されるんじゃないのわたし......。

「ってなんだ、服を着てるじゃないか。ヤることヤったならさっさと起きろ!」

「んん、なんだ......煙さん......?」

そしていいタイミングで魔法が切れた〜〜!!!パチパチと瞬きをしながら起き上がった先輩さんが、じっとわたしの顔をみてくる。

「仕事だぞ」

「......なあ、猫山ってだれだ?」

「エッ」

「おい今無視したのか?おい心」

煙様が低い声を出すのにもかまわず、先輩さんはじーっとわたしの目を見つめ続ける。な、なんで猫山のことを知って、えっ起きてたの?

「名前のパートナーか?」

「猫山とやらの場所もついでに探してやるから、さっさと仕事に行ってこいッ!!!」

「サンキュー煙サン。じゃあ、土産持ってきてやるから、良い子で待ってろよ」

「アッハイ」

誰もいなくなった部屋に一人残されて、睡魔がやってくる。こんな状況でも、良い夢を見られるのはたぶん自分の魔法の影響だろう。猫山が窓から入ってきて手を伸ばしてくれる。ぎゅっと抱き締めた猫山の体温に安心する。

「ただいま、名前」

「ねこや.......ま?あれ?猫山が、いない......?」

わたしを抱きしめているのは、わたしのパートナーよりもふたまわりも大きな男で、知らない人に抱きしめられているという現実よりも、いつも感じていた猫山の気配がぽっかりと抜け落ちていることに焦りを覚える。

「ああ、アイツなら殺してきた」

「な、なんで?ね、こやま、猫山、なんで?」

「なァ、俺の名前呼んでくれよ。シン、って、名前の口で呼んでくれ」

「猫山は......?」

「名前、俺の名前を、よぶんだ」

「し、しんさん、なんで猫山、ころしちゃったの......?」

「あの男の中にあった名前の契約書は、俺の腹ん中だ。美味かったぜ」

ニイッと笑顔を見せる男の言葉に、気が遠くなる。胸を開いて、取り出したの?生きたままで?

「わ、たしも、殺すの?食べるの?」

「そんなことしねぇよ。食べるのは名前が死んだ後だ」

やっぱり食べるんじゃないか!恐怖と悲しみで、涙がぼろ、と目から溢れる。それを見た男がわたしのマスクに手をかけるのを、今度は止められなかった。

「あぁやっぱり、かわいい顔だ」

泣いてる女の子の顔を見て「かわいい」だなんて、悪趣味がすぎる。ぐずぐずになったわたしの顔に、男の顔が近づく。

「名前の両親にも会ったぜ。母親は殺したが、父親はまだ殺してない」

「......っなんで?」

「花嫁の父親は結婚式に必要だろ?」

殺すのはその後だな、と笑う男が、わたしの頬にキスを落とした。


(口にちゅーするのは手をつないでからです)




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