君が死んだと聞いた朝
その日は、誰もが気づかないうちに訪れて、誰にも気づかれず過ぎていった。
「ねえ、栗鼠くんってさ、」
「ああ、最近みないよな」「知らない」「どうでもいい」「死んだんだろ」「だから?」
社会の底辺にいるような魔法使いたちは、基本的に心もさもしい。余裕がないからだ。他人のことなんて、誰も気にしたりしない。
だから、わたしだって、別に、彼がいなくなったからって、悲しんでいるわけじゃあない。ただ、少しだけ、戸惑っているだけで。
栗鼠くんは、きっと永遠に、わたしの人生に存在しつづけるんだろうな、と信じていた。思いこんでいた。そんなこと、あるわけないのに。
わたしたちは、ゴミみたいに、害虫みたいに、どこかの誰かの思いつきで、誰にも知られずに殺されて、そのまま忘れられていく。今回のことだって、その順番が栗鼠くんのところにまでまわってきただけなんだろう。わたしたちは、順番に死んでいく。次々に死んでいく。そして、地獄にいって、永遠に苦しむのだ。
ああ、でも、そう考えるのなら。
「やっぱり、わたしたちは永遠なんだよ」
あなたが、地獄で苦しんでいるだろうことを想像すると、不思議と空が綺麗に見える気がした。
無価値な栗鼠くん。無意味なわたし。それでも、わたしたちは存在しつづける。誰もそのことに気がつかないだけで。
いろんなことがあって、その日はもうすっかり過去のことになって。そんなあるひ、唐突に、栗鼠くんがわたしの前に現れた。
「あー、ひさしぶり」
「いきてる」
「まあな」
「地獄に落ちたんじゃなかったの?」
「まあ」
「ゆ、ゆるさない、」
「あ"ぁ!?」
苦しんでいたのだとおもっていたのに。死ぬよりもっとつらい場所に、永久に閉じ込められていたのだと、そう信じていたから、わたしは、わたしがひとりで生きていることに耐えていられたのに。
殺してやろうと思って、栗鼠くんの胸を強く押したけれど、この巨人は一ミリも動いてはくれなかった。だから嫌いなのだ。こういうところがダメなのだ。最低なのだ。
「悪かったよ」
「......」
「オレが悪かったよ」
わたしは絶対に、栗鼠くんを許したりなんてしないだろう。「許さない」ともう一度つぶやいたら、栗鼠くんは何故か嬉しそうに笑ったので、あの日以来、初めてわたしの目から、涙がこぼれた。
(永遠を夢みた日)
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