28

時が経つのは意外と早く、ついに明日体育祭が明日に迫っていた。

俺は変わらずに苗字と昼食を一緒に食べている。
毎日一緒で迷惑ではないかと思ったが、特に気にしていない様なのでそれに甘えていた。

「そう言えば苗字は体育祭出ないんだったよな?」

確か少し前にもチラッと聞いたが、確認するようにもう一度苗字に尋ねる。

「うん、私出たら一発で死ぬ気しかしない。」

「大袈裟…ってわけでもないか…。」

「え、それって貧弱って事?」

心外だとでもいうように抗議をして来るが、如何せん俺は既にやらかしているので逆に出ると言われればやめろと止めるところだ。

「いや、前科があるからな。」

「前科って…ああ、」

苗字は思い出したかのように頷くが、俺は忘れてないし、忘れられそうない。

「はあ、だからあの話はおあいこって言ったじゃん。」

「俺は納得してない。」

「全く真面目なんだから…。」

既に苗字の中では終わった話みたいだが、俺はまだ納得していないし、するつもりもない。
傷こそ残っていなが、残っていたらもっと大変だった。
その辺に関しては心底良かっと思っている。
そこからはお互い昼を食べる事に集中し、食べ終わると俺は日課みたいになりつつある仮眠をとる事にした。
しかし、その日は気を張りすぎていたのか、睡眠が浅すぎたのか、気付いたらいつの間にか本当に寝てしまっていた。


ふっ、と意識が持ち上がった気がした。

「…?」

確か、ベンチで休んでいたはずで…
なんで誰かに寄りかかっているみたいに体が傾いて…

「…!?」

その瞬間意識は一気に覚醒し、寄りかかっていたであろう苗字に謝罪をする。

「苗字悪りぃ…!」

全く気がつかなかった。
まさかそこまで気を抜いている自分に少しショックを受ける。
重くなかっただろうか…いや、完全に体を預けていたんだ、重かったに決まっている。
慌てて謝り倒そうとするより先に苗字が口を開いた。

「うん?私は本読んでたから何も知らないよ。」

…本当に、苗字はこういうところが凄い。
凄いっていうのはおかしいかもしれないが、これ以外の言葉がうまく見つからない。
こういうところに、俺は何度助けられたか分からない。

「悪い…いや、ありがとう。」

「どういたしまして。」

これではありがとうと言うしかできないし、これで良かったと思う。
苗字のどういたしましても何度か聞いたが、俺はこの響きが好きだった。

昼休みもそろそろ終わるので、苗字と教室へと戻っていると何故か爆豪が目の前に立ちはだかった。

「おい半分野郎!!」

「…爆豪か。」

…何か用か?
入学して以来、何かと突っかかって来る奴だった。
少し、久道に似ている。

「てめぇ、俺達には仲良しごっこしにきてるんじゃねぇとか啖呵切っておきながら自分はどうなんだよあ゛ぁ!?」

「…。」

「こんなクソモブ無個性女なんかと仲良くしてる暇あるならてめぇの個性でも磨けや!」

「っ苗字は…!」

まさか苗字の事を言われるなんて思ってなかったので、反論が少し遅れた。
自分でも、そう思っているからだ。
分かっていながら苗字と一緒にいる自分と、苗字のくれる安心を手放したくない自分がいつも鬩ぎ合って、結局苗字と一緒にいる事を選んでしまう。
自覚があるからこそ、爆豪に正論を言われて何も言い返せなかった。

「あのー、」

何も言い返せないでいると、隣にいた苗字が声を発した。

「あ゛ぁ!?」

爆豪も話しかけられると思っていなかったのか、凄い形相で苗字を睨んでいる。

「仮に轟君が君達にそう言ったんだとしてもさ、私と彼の関係性とか君に関係なくない?」

「…っクソナードは黙ってろ!!」

「いやもうクソでもカスでもいいけどさぁ…轟君推薦枠で合格してるんだよ?
努力してないわけないじゃん。」

「苗字、」

まさか、苗字がそういう風に思っているなんて微塵も思わなかった。
自分でも努力を怠っているつもりはないし、クソ親父を否定する為にそれ以上をしなければいけない。
信じられるのは自分だけだから、別に周りの連中に何を思われていようがどうでも良かった。
でも、仲良くなりたいと思っている相手にこう思われるのは少し嬉しかった。

「っち!!」

爆豪は舌打ちをすると動じない苗字に諦めたのか去っていった。
苗字は物怖じしねぇな、と少々驚いたが感心している場合じゃない、苗字に謝らないと、

「…苗字、悪い。」

「え、謝るのは私なのでは…?」

仲良くしたいと言っておきながら何も言い返せず、寧ろまた傷つけてしまった事を詫びると何故と言う顔をされた。

「なんで苗字が謝るんだ…?」

思わずこちらも同じ顔になる。

「いや、出過ぎたこと言ったなぁって…。
ごめん、何も知らないくせに。」

「いやそれを言うなら俺だ…何も言い返せなかった…悪い。」

苗字は苗字で出過ぎた事だと思ったらしい。
いや、やっぱり謝るのは俺の方だろう。
逆に俺は嬉しいと感じてしまったし、言い返せなかったのは事実だったからだ。

「うーん、無個性なのは別に事実だし、轟君が自分の最大限で努力してるのは本当じゃん?
…仮に、昼休みの事を気にしているのならあれは休息とってるだけだよ。
遊んでるわけじゃない。
人間ずっと動きっぱなしなんて無理に決まってるし、時には休息も必要だよ。
私は轟君にとって必要な時間だったと思ってるよ。」

「苗字、」

必要な時間だと言ってくれるが、俺の中ではやはりそれを許せない自分もいた。

「それでも納得できないというなら明日結果を出せばいいんじゃない?」

「ああ…そうだな。」

仮に苗字との時間が余計な時間だと言うのなら、それを必要だと言えるように明日優勝を取ればいい。
誰にも文句は言わせない。
あのクソ親父にも、爆豪にも。
そうだ。
俺は優勝を取らなければならない。
そうしてあいつを完全否定して、俺には右が不必要だと知らしめる。