29 体育祭当日。 私はいつもより早く学校に来ていた。 棄権する代わりの仕事でいつもより早く出ないといけなかった。 トイレの場所やどの場所に何があるかなどの把握をしないといけないので早く来るようにと担任に言われた。 主な仕事内容は1年生全体のサポートみたいな物だった。 物運びや救護室の手伝い、生徒やその他関係者などの道案内と本当に雑用だ。 流石に他にも人手はいるが私以外全員外部からきた雄英の関係者で厳選された人達だった。 服装は体育着なのだが腕に雑用の腕章をつけている。 指示は主にリカバリーガールと担任からもらう予定だ。 学校へ着き、早速担任の所へ行くとリカバリーガールの手伝いをしろと言われたのでそちらへ向かう。 「あんたが雑用係の苗字名前だね?」 「はい。担任に言われてきました。」 「それじゃこの包帯を救護室まで運んどくれ。」 そこには大量の包帯の山が積んであった。 うーん、明日多分筋肉痛だな。 リカバリーガールに言われるがまま雑用をこなしていると、開会式が始まったみたいだ。 私は棄権と言う扱いなので、開会式もでない事になっている。 救護室のテレビを横目に見ながら包帯を指定の場所においていく。 選手宣誓は確か…爆豪?君?と言う昨日絡んできた子がしていた。 その宣誓を聞いて自信がある子だなぁと思った。 後やっぱり口が悪い。 そうして始まった体育祭。 最初の競技は障害物競走だった。 いやこれ…規模が違いすぎる…。 私の知ってる障害物競走なんかと全然違う…。 なんだこれ…次元が違いすぎる…。 いやぁ…本当に出なくてよかったなぁ…。 ちらちらとテレビを見ながら仕事をこなしていく。 すると轟君が先頭を走っているのが目に入った。 「いやぁ…凄いな。」 流石推薦枠。 ………けど、昨日の冷たい目が頭を過った。 私は、轟君がヒーローに何を思っているのかほとんど知らない。 彼と私の間にヒーローと言う話題があまり出ないからだ。 ただ彼の父親がヒーローで、その父親から受け継いだ炎の力を一切使わずに一番になると言うことは知っている。 個性婚の事も少しだけ聞いた。 その話でなんとなく事情は察した。 しかしこの話を聞いた時はますます轟君が私と仲良くする理由が分からなかった。 私の知っている轟君は真面目で、優しくてちょっと天然で、冷たい目をしているけど多分根がそんな性格で…、 まあでも仲良くなるのに理由なんて必要ないか、といつものように思考を放棄した。 そう言うのは理屈ではないと、前の時からそう思っていたではないか。 私のどこを気に入ったのかは知らないが、私は彼を友達としてとても好ましいと思うし、彼自信が私と仲良くしたいと言ってくれたから、それに応えたいと思う。 彼と私とでは目指す物が違いすぎるが、一人くらいそう言う人間がいてもいいのではないだろうか? きっと轟君とはヒーローの話はこれから先も興味のない私とじゃできそうにないが、彼のいい所は沢山知っている。 共通の話題が大事と言うのは分かっているが、人間性の相性の問題もあるだろう。 それに、やっぱり私自身はどうしたって無個性なので轟君の個性の問題については触れられない。 話は聞いてあげれて理解はしても同じにはなれない。 だから、誰か、どうか。 他人任せかよと思う自分もいるが、こればっかりは同じ道にいる人に任せるしかないのだ。 彼を助けてとは言わない。 話を聞いてあげて欲しい。 本当はこんなに優しい人なんだと、分かって欲しい。 彼の冷たい目を、どうか。 優しい目に変えてくれないだろうか? 「本当はとても優しいんだよ、轟君は。」 ぽつり、と誰に聞かせるわけでもないがそんな事を呟いていた。 ぼんやりとしている長い長い休憩地点で、私は少しだけ彼の成長が楽しみだと思ってしまった。 |