27

いよいよ体育祭が明日に迫っていた。
今日はベンチで轟君とお昼を食べている。

「そう言えば苗字は体育祭出ないんだったよな?」

「うん、私出たら一発で死ぬ気しかしない。」

「大袈裟…ってわけでもないか…。」

「え、それって貧弱って事?」

何やら深刻そうにそう呟く轟君に、私はちょっとショックだ。
いや個性持っている人達のスペックが基本高いだけであって、そこまで運動とかができないってわけでもないと思うんだけどなぁ…。

「いや、前科があるからな。」

「前科って…ああ、」

彼が言う前科とは恐らく私の瞼の傷とかだろう。

「はあ、だからあの話はおあいこって言ったじゃん。」

「俺は納得してない。」

「全く真面目なんだから…。」

お互い様って話で終わったはずだったがやはり彼は納得いってないようだった。
今度から頑固だという事も追加しとこう。
それからはお互い無言で、特に気にする事もなく黙々とお弁当を食べていた。
食べ終わると轟君はここ数日の日課である仮眠をとるが、ベンチ寝辛くない??
寝る、というよりは目を瞑っているだけかもしれないが…。
まあ目を瞑るというだけでも効果があるとどこかの本で読んだから何もしないよりはいいのだろうけど。
私は今日も本の気分だったので本を持参している。
ぱらり、と頁をめくりしばらく没頭していると肩に重みを感じた。
見ると轟君が寄りかかっているではないか。

さては君相当疲れているな???

はあと深いため息つきたいのを押さえ、何も知りませんよという顔で本を読み続けた。
うーん、私は別にいいのだがこれ誰かに見られたらお年頃な彼らの目にはきっと彼氏彼女の関係に見えるのだろう。
だからと言って私にもたれ掛かっている事に気が付かないくらい寝てしまっている彼を起こす勇気もない。
明日体育祭だしなぁ…起こしたくないけどうーん…。
うん、考えるのをやめよう。
そうして私は思考を放棄した。

暫くして轟君が動く気配がした。

「…?…!?」

ぼんやりとしていた彼はようやく自分がどういう状況になっているのか気がついたようだった。

「苗字悪りぃ…!」

驚くほど慌てている彼を見るのは初めてだったので、轟君も驚くんだなぁと思いながら私は素知らぬフリをする事にした。

「うん?私は本読んでたから何も知らないよ。」

そう言って本を閉じる。
そろそろ予鈴もなるし、教室に戻る準備をする。

「悪い…いや、ありがとう。」

「どういたしまして。」

私がとぼけたフリに気がついたのか、轟君はそれ以上何も言わなかった。

教室に戻るために長い長い廊下を並んで歩いていた。
ここ数日はずっと一緒にお弁当を食べていたから、周りからの目線がまた痛くなってきた。
ちくちくするなー。
と呑気な事を考えていると、目の前に一人の男の子が立ちはだかった。

「おい半分野郎!!」

よく見るとこの間A組に行った時に目の前にいた轟君とどっこいどっこいの目つきの怖い子だった。
ん?半分野郎??
え、轟君の事??

「…爆豪か。」

「てめぇ、俺達には仲良しごっこしにきてるんじゃねぇとか啖呵切っておきながら自分はどうなんだよあ゛ぁ!?」

「…。」

めっちゃ口悪いな。
最近の子怖い。
そしてめっちゃ失礼。
これでヒーロー科なのか…?

「こんなクソモブ無個性女なんかと仲良くしてる暇あるならてめぇの個性でも磨けや!」

「っ苗字は…!」

すごい目くじら立ててくるじゃん。
ええ…
いや私は別に何言われてもふーんって感じなんだけどさぁ…この子に轟君の何が分かるのかなぁ…。
まだ1年とちょっとしか轟君といないけど、彼だってそれなりにちゃんと努力してる。
うーん、めんどくさいのに絡まれたねぇ…。

「あのー、」

「あ゛ぁ!?」

いや顔。
凄い睨んでくるやん。

「仮に轟君が君達にそう言ったんだとしてもさ、私と彼の関係性とか君に関係なくない?」

「!」

「…っクソナードは黙ってろ!!」

「いやもうクソでもカスでもいいけどさぁ…轟君推薦枠で合格してるんだよ?
努力してないわけないじゃん。」

「苗字、」

「っち!!」

目の前の男の子、爆豪と呼ばれたその子は埒が明かないと判断したのかそれ以上何も言わずその場から去っていった。
…なんだったんだ。
明日体育祭だから気が立っているのかな?
殺気だってるねぇ…。

「…苗字、悪い。」

すると隣にいた轟君が謝罪をしてきた。

「え、謝るのは私なのでは…?」

本当に余計な事と言うか出しゃばったと言うか…
土下座をしろ言われたらできる気がする。

「なんで苗字が謝るんだ…?」

「いや、出過ぎたこと言ったなぁって…。
ごめん、何も知らないくせに。」

「いやそれを言うなら俺だ…何も言い返せなかった…悪い。」

ああ、そういうことか。
気にしすぎなのでは???
寧ろ轟君が謝る事なくない??

「うーん、無個性なのは別に事実だし、轟君が自分の最大限で努力してるのは本当じゃん?」

私はそう言ったが、彼はまだ納得していないみたいだった。

「…仮に、昼休みの事を気にしているのならあれは休息とってるだけだよ。
遊んでるわけじゃない。
人間ずっと動きっぱなしなんて無理に決まってるし、時には休息も必要だよ。
私は轟君にとって必要な時間だったと思ってるよ。」

「苗字、」

「それでも納得できないというなら明日結果を出せばいいんじゃない?」

「ああ…そうだな。」

轟君は何処か張り詰めたように、ひんやりとした冷たい目をしていた。
あーそっち方面に考えちゃうかー。
明日心配だなぁ…。