実に寝苦しい夏の夜の話。扇風機の風も生ぬるく、何時間かおきに目が覚めてしまうような夜。だというのに隣の愛しい背中にすり寄って眠る、ある日の夜中の話。
「日向君、起きてるでしょ。」
「ん、起きてる。」
「暑いね。」
「暑いな。」
短い会話をしていると、もぞもぞと日向君は寝返りを打ってわたしの方を向いた。日向君の顔が近い。こうして一緒に眠るのは初めてじゃないのに、恥ずかしくなって胸板に顔を埋める。何をやっているのだろう、もっと恥ずかしいことだって済ませた仲なのに。
「暑いんじゃなかったのかよ。」
「いいの、日向君は別。日向君も暑いんじゃないの?」
「暑いけどまぁ、いい。」
そういう日向君こそわたしを引き剥がさないのだから、そういうことだ。かすかに感じる日向君の吐息がもどかしい。もぞ、と動くと日向君の腕が伸びてきて抱き寄せられる。ぶつかった脚をお互い何事もないように自然と絡める。どんどんと距離を詰めていくと、日向君の呼吸も鼓動も伝わってきて、わたしは満たされるような気持ちになる一方、何かに飢えていくのを感じていた。
なかなか寝付けずそっと日向君の顔を見上げると、どうやら日向君も寝付けないらしく、わたしの見上げる動きに反応して、日向君もわたしの顔を見た。
じっと何秒かお互いを見ていると、日向君は少し困ったように笑ってわたしに顔を寄せる。そして、唇に日向君の吐息を感じる距離まで近づけると、唇が触れるか触れないかの位置で囁いた。
「…絢、それ、わざと?」
「わざと、って?」
「だから、脚。」
日向君はそう言うと、わたしの脚の間に滑り込ませて絡めていた脚をぐっと上げて押し付けた。
「んっ、ちょ、どこ…」
「だからそれ、オレの台詞。さっきからオマエ、どこで脚もぞもぞさせてんだよ。」
そう言われて気が付いた。
なんとなく感じていた飢えは、自覚してしまえば簡単なことだった。
脚、と言われてわたしの太ももの位置を見る。そこではたと気が付いた。わたしはさっきからずっと、日向君のそれを撫で上げていたらしい。ぼんやりとしていたときには気にしていなかったが、今になってみるとそこには硬度を伴った熱があって、苦笑する日向君の意味を噛み砕くことができた。
「ご、ごめん!」
急に恥ずかしくなって、無意識の欲を殺す様に日向君から離れようとすると、腰を抱かれてまたその位置へと戻される。
「なに逃げてんだよ、絢。」
あ、これはまずいスイッチを押してしまった気がする。
そう思ったときにはもう遅く、わたしの唇は日向君に奪われていた。太ももに感じる日向君の熱がまた少し硬度を増して、わたしにその存在を主張する。
ちゅう、と舌を吸われて離れた唇は濡れていて、わたしは名残を惜しむように日向君の唇をなぞるように舐めた。
どく、と日向君のそれに血が集まって硬くなるのを感じて、愛しい気持ちに支配されてそこで思考が止まる。
「……わたし、暑くて頭沸いたのかな。」
「ん?」
そうだ、もう全部暑さのせいにしよう。
そうすれば、恥ずかしいことなんて何もない。
もう一度、その熱を太ももで押し上げてわたしは日向君の胸の真ん中をつぅっと人差し指で撫で上げた。ふ、と日向君の吐息が漏れるのを感じる。
「ッ、どこでそういうの覚えてきたんだよ…」
「日向君しか知らない…よ。」
あとはもう、本能に任せて。
責任転嫁
(夏のせい、は便利な言い訳。ただ、あなたが欲しい。)