【黒いリンゴはいつも笑ってる】




第二話

2013/10/24 00:16



 ―次の日―


初音は、昨日の出来事を思い返してみていたが、見知らぬ男にビンタしてしまったと嘆いた……でも、何故私の事を知っていたのだろうと不思議に思った初音は仕事に行くことにした。

初音の仕事場は、【外】、つまり営業なのだが、今日は大事な取引先と会う日なのだけれど初音は気になる点を相手先の資料で見つけてしまった……。

「この名前……聞いたことあるな……営業部部長 一ノ瀬 楓太(いちのせふうた)…昨日の?いやそんなことないよなぁ〜ないない」

と言い自分の会社【マリンポア】を出た。

 自分の会社からそんなに離れていない【トランゼス】ここが初音の今日の「大事な取引先」そんなビルの真下に立った初音は三八階建のビルを下から見上げた。

「おっきいなぁさすが大手」
と言いそのビルの二五階へと向かった。
二五階に着いた初音は一人で商談に来たことを後悔していた。

「こんなに広いとこならもう一人連れてこれば迷子なんかならなかったのに」

そう、初音は迷子になっていた。
よく迷子になりやすい初音はどんな簡単な場所でも迷子になる。
十分後、やっと営業部を見つけ出した。

「遅くなりました本日商談に来ました。【マリンポア】の営業部長 夜久野初音です。営業部長サンはいらっしゃられますか?」
初音が営業部の扉を開き部長がいるか確かめるとその先には見覚えのある男が座っていた。

「私ですが……なんだ君営業部長だったんだ。」

そこに座っていたのは昨日の電車の男「楓太」だった。
初音は、なぜホストまがいの男楓太が?と混乱しそうだったのを見て楓太が、

「両社、ゆっくり話をして商談さしてもらいたいので会議室を借りるから開けないでくれないか?」

と自分の部下に言い一つ部屋を借り鍵を閉めると楓太が力を抜いたように初音に話し始めた。

「はぁ〜なんだ君だったんだ【マリンポア】の営業部部長ってかなり敏腕って聞いていたから少し見てみたかっただけなんだ。昨日の事とは関係ないから……。」

と言うと初音は安心して仕事の話を所要とするとその前に初音が、
「昨日はごめんなさい……きっ・・・・・急に叩いてしまって・・・・・・。」
そう初音は言うと真っ赤に染め上がった顔を資料で隠した。

「あぁ・・・・・昨日は僕も酔っぱらってたからね…ってあの時はもう覚めてたけど‥…まぁ仕事の話をしようか?」
と言い淡々と楓太は初音に仕事の話を始めた。
そして仕事の話がまとまり2時間ぐらい話を詰めて仕事の話は終わった。

「と言うことでよろしくお願いします。」
初音は仕事話が終わったのでお辞儀をし会議室から出ようとすると、楓太が初音の腕をガシッと強く掴み初音を止めた。

「なんでお前は俺を忘れてるんだ?」
そんな不思議な言葉を楓太は初音に投げかけてきた。

「は?いきなり何を………私はあなたと昨日あったばっかりで……」

そう口ごもる初音の脳内に何かいつかいつしかの記憶が蘇りそうになった。
その一瞬の記憶は今の初音にとっては見覚えのないものだった。

「(今のは・・・・・・)」

それの記憶が少し蘇ったと同時に初音はその会議室で意識を失った・・・・・・。













【初音・・・・・・初音・・・・・・・】


初音は誰かに呼ばれている夢を見ていた。


【あなたは・・・・・・・・・?】



初音は自分のことを呼ぶ相手の背中を追いかけるがその相手の名前が自分の喉からその相手の名前が一文字たりとも思い出せない・・・・・・・・。



【僕は・・・・・・・・・・・・・・よ】




相手がこちらを振り向いて相手の手もつかめず砂のように消えて行ってしまう。
その相手は何かを初音に伝えているのにその言葉すら初音には届かない・・・・・・・
そんな夢を見ながら初音は目を覚ました。

初音は起き上がると周りをゆっくり見渡した。
初音の隣には千莉香と楓太が心配そうに初音のことを見守っていた。
そして初音は体を起こし意識が朦朧としながら一言つぶやいた。

「・・・・・・・・・・・・・・・笑ってた。」

そう呟く初音の目からは真っ直ぐな涙が流れた。

「どういうこと?」
千莉香は初音に聞くと初音は夢の話をおもむろに話しだした。

「男の人が何か話してるのでも何かわからないのでも・・・・悲しそうな気がするのにずっと笑ってるの・・・・・」

その言葉を聞いて、突然楓太は初音がいる病室から飛び出した。
そして、楓太は病院のロビーで一人うずくまりながら泣いていた。




「どうして・・・・・・・・・あいつは覚えてないんだよ…」
するとゆっくりと初音の病室から出て楓太を追いかけてきた千莉香が楓太に声をかけた。


「しょうがないでしょ?あの子は【記憶喪失】なんだからそれも、あなたの記憶だけ失くしたんだから・・・・・・・」




そういい楓太の肩を慰めるように優しく叩いた。








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