格好悪いスターフェイズさんの格好悪い告白

「いいか、レオナルド」
 そう言う顔はいつもふざけているのが嘘に思えるほど真面目なものだった。じっと見つめてくる目は真剣そのものでいつもならザップの言葉など話半分で聞くようなものだが、真面目に取り合ってしまう。どうしましたと真っ直ぐにザップを見つめるのにザップは口を開く。
「お前、徹夜だけはするな。絶対だ。絶対。徹夜したら最後寿命が縮むと思え」


「は」
 真剣に聞いていたレオナルドの口はぽっかりと開いてしまった。何を言われたんだと呆れた顔をするのに馬鹿とザップが怒鳴る
「お前人が折角アドバイスしてやっているのにそれはねえだろう」
「いやそういわれましても……」
「これまじで大事な話だからな」
 ぽっかんと開いたままの口にザップは盛大なため息をついている。そしてもう一度真剣な目で見てくるのに、レオナルドはいまいち納得がいかないと首を傾けていた。間抜けな顔をしている。浮かんでいるのは一人の男のことだった。
「はあ、そうですか。でもそれを言うならスティーブンさんとかどうなるんですか」
「……」
 えっとレオナルドから声が出た。浮かんでいる男の名前を口にしたら訪れた奇妙な沈黙。ザップが目頭を押さえて上を見上げるのにちょっとした不安が押し寄せる。どうしたんですとレオナルドが聞くのにザップはまた深いため息をついた。
「ああ、スターフェイズさんね。スターフェイズさん。あの人まじでやべえ。あの人多分今日起きたら死ぬかも」
 そして捻りだすように答えた。
「はーー、え、ちょっと待ってください。死ぬかもって、え、死ぬかもってどういうことっすか、それ」
 レオナルドが慌てるのにザップは大げさに肩を落とした。顔を覆う手。まじで何があったんだと見つめる中でザップは口を開いた。
「多分羞恥で死ぬ」
「は?」
またもやレオナルドの口が開いた。何言ってんだと見つめるのにでもザップは真剣な目をしていた。
「羞恥で死ぬって。え、何かあったんすか」
「それはあんまり聞かねえほうが、いや、ここまで聞いてことだしきいてくれ」
 はああああとため息とともに話し出すザップ。この人最初からこのつもりだったんじゃないのかとレオナルドは思った。



 あれはつい二時間前のことだった。二時間前、俺はここに来たんだよ。
 あーー、早かったんだけどよ、まあいくとこもなかったんで、うるせ。そういうのはいいんだよ。まあ、ここにきたわけだ。そしたらいたの。何がって番頭がだよ。番頭。
 あの人、まだこの事務所にいたの。んでさ物凄い顔で仕事してたの。鬼じゃねえのかって顔。怖いも何の。帰ろうかと思ったけどさ、あれじゃん、帰る場所ねえし、女の所行くかって悩んだんだけど、そんなことしてたらあの人に見つかったんだわ。おとなしくしとけよってすげえーー声で言われてさ、帰るって言ったらああって滅茶苦茶どすの効いた声を出されたんだ。まじで凍らされるかと思った。
 お前どうせ帰ったら寝るか何かして遅れてくるだろう。遅刻しないようここにいろとかそんなこといわれてよ。
 んだと、あーー、まあそれでよ、部屋にいたわけ。部屋に。でもあの人まじで怖くて怒られたらやばいって大人しく丸まっていたんだけどさ、まあ、でもほら、俺じゃん。三十分ぐらい大人しくしてたんだけど暇になって、仕方ねえだろ。
 大人しくしとくのなんて性に合わねえんだから。いや、いくら俺でもあのスターフェイズさんの逆鱗に触れるようなことはできなかったさ、でもあの人そりゃあもう滅茶苦茶いらいらしていたみたいでさ。いつものなんだかんだで優しいスマートな氷の番頭じゃまったくなくなってたんだよ。
 ああ、くそが。ファックとかくそほど言っててさ。
 本当だよ。本当。まじであれてたんだ。
 なもんだからあの人に言ったの。
 ちげえよ。お前俺を何だと思っているんだよ。そうじゃなくて俺はこういったんだよ。あんた何徹目ですかって。そしたら五徹目だとよ。
 そりゃあもう寝た方がいい。お前だってそう思うだろう。俺も思ったから言ったわけ。もう寝てください。仕事してる場合じゃないでしょうって。そしたら眠れないほど忙しいんだよ。分かれって怒られて、俺が忙しいのはどこぞの屑が起こした騒動のせいでもあるんだぞ。分かっているのかって無茶苦茶説教されてさ。
 あーー、なんのことだかあんまよく分かんなかったけど、いつもの数倍怖かった。
 このままだったらみんなが来るまで説教されちまうと思って本気であの人寝かせようとしたの。分かりましたけどとりあえず寝ましょう。って
 え? 簡単に寝かせられたか。馬鹿。そんなわけねえだろう。
 仕事するの一点張りで仕事しようとするからディスクから引きはがそうとしたら凍らせようとしてくるし、それでも何とか椅子から下ろしたらパソコンにしがみついて俺が仕事しないと世界が滅ぶとか叫んでさ。
 まじまじ。本当いつもの番頭とは思えないだろ。俺は失神しそうになった。
 それでも何とか頑張ってたらさ、あの人が急に分かった休むって言い出したんだな。これで終わりゃあ俺だってあんなこと言わねえし、スターフェイズさんも死ぬ事にはなんねえよ。
 終わんなかったんだよ。
 あの人俺に膝枕しろって迫ってきて、なあ、そりゃあそんな反応になるよな。
 でもマジなんだよ、あの人まじで俺に膝枕要求してきて俺がこんなに眠れないのはお前のせいなんだからお前が責任とれとか言ってくんの。いや、俺も分かるよ。分かるけど、そこで膝枕はないだろ。
 俺男じゃん。男の膝枕なんて良い奴じゃないし、そもそもベッドで寝た方がいいし、だから、ベッドで寝ましょう、ソファで寝そうなあの人引っ張って仮眠室まで連れていこうとしたの。
 そしたら番頭、俺のくせに僕の言う事が聞けないのかとか膝枕しないのなら寝ないとか言い出して、
ああ、だからスターフェイズさんの話で間違ってないんだよ。俺らがライブラの氷の番頭、スティーブン・Å・スターフェイズの話。
 まあ、信じられないのも分かるけどな。
 めちゃくちゃだったよ。でも何とか頑張ってあの人ベッドの中に押し込んだんだ。まじ大変だったぜ。三回ぐらい凍りかけたし、スターフェイズさんの事真っ二つにしかけたし、本当大変だった。
 おうおう。もっと俺をほめたたえろ。感謝しろ。
 五徹目のあの人を休ませたのは俺ぞ。
 ああ、まあ、まだよ。まだまだあの人は大人しくならなかった。
 いやよ。あのベッドに転がり込んだら今度は俺を抱き枕扱いしてきてよ。何が悲しくて男の抱き枕にならにゃあならんのか分からなかったんだけど、逃げたらやるとまで言われるからさ、大人しくするわけ。
 そうしたと思ったらあの人ぐちぐち言い始めたの。
 あーー、どんなことってあんまあれだけどくそだとか何だとか言ってたよ。なんかクラウスの旦那のことも言ってた。
 まじまじ。
 いい加減あのパーティー好きもどうにかならないのか。僕は毎回ひまなわけじゃないんだ。するなら僕は誘うなって。まあ、納得だわな。でもライブラでやるなら番頭がこねえのも変だしな。
 いやーー、こういうのあの人言わないだろう。まあ、いいんじゃないの。それに他の愚痴の方がやばかったしな。
 まあ、逃げようとはしなかったな。もう諦めたって感じ。俺が少しでも身じろぎをしたら逃げたらやるって脅して来るんの。もう少しお前は俺に気を使うべきだ。問題ばかり起こすなとかまた説教されてさ、そん中で徹夜は体に悪いとかってことも言い出しだんだよな。
 よく覚えてはねえけど、なんでも寝ないと脳細胞が死滅するとかで確実に寿命を減らしてるとか、徹夜し続けると極限状態になってうまく判断がつけられなくなるとか、四、五徹目はまじでやばくてずっとイライラし続けてどうでもいいことまで腹だたしくなる。些細なミスも起こしやすくてミスだらけになるって。
 な、まじで大変そうだった。
 いつもはみんなが来る前にどうにか腹立たしいのを抑えこんでいつもの僕を演じているのにこんな時だけ早く来やがって、腹立たしいのが抑えられないだろうが。屑のくせに。俺はお前にはスマートな上司っていつまでも思われたかったんだぞ。どうしてくれるんだとか言われてさ。
 おう。そう言われたんだよ。
 いや、俺も驚いたし、聞き間違いかと思ってよ、もう一度言ってもらえるか聞いたんだけど、そしたら全く同じこと言われてよ。
 まじだ。
 と言うか驚くのここじゃねえから。それよりもっと驚く場所あるから。問題この後。
 まじだから、目玉飛び出るぐらい驚くから。あ、飛び出てもちゃんとしまえよ。目ん玉なくしたお前なんか、ただの陰毛だかんな
 俺がさ、なんかまずいと思って、謝りながらにげようとしたんだよ。そしたらさ、俺凍らせてきて、ああ、凍っちまった。ベッドの上でちょっと油断してた。それでさ。ぎゅっと抱きしめて出ていこうとするな。ここにいろとか言ってくんの。
 いやいや。男が抱き枕とかしてもいいことねえじゃん。女、女呼びましょう。俺いい女つれてきますから。俺なんかと寝たら悪夢見ますよ。起きたら後悔しますからって言ったんだけど、そしたらスターフェイズさんさ、女なんかいらん。僕はお前が好きだからお前が良いんだって

驚いた。
 俺も驚いた。
 何言ってんだこの人。仕事のし過ぎで脳細胞死に過ぎたんじゃないかって思った。スターフェイズさんはさなんかそこからは滅茶苦茶好きって言ってきた。
 好きなんだから仕方ないだろう。お前は屑だと思っているけど好きなんだよ。そんな屑なところも可愛いなとか思っちまうんだよ。とか何とか。
 あーー、いや、ほら、みんなが来る前に寝てほしかったし、まあ、好きっていうよな。あーー、その後、そうか。そうだよなってなんかうれしそうにして、
 じゃあ、僕たち両思いだ。今日から晴れて恋人同士。起きたら指輪買いに行こう。お前に似合うの実はもう決めてあるんだ。耐熱性の頑丈な奴だからちゃんと毎日つけろよ。僕も毎日つけるからって言って寝た、
 寝た。
 まじだ。寝た。
  あの人まじで拘束きつくてさ、さっきようやっと抜け出せたんだよな。そうそうこの濡れている足は凍らされていたところな。
 そうなのよ。俺ちゃんのビッグマグナムまであとちょっとで凍傷しそうだった。

 なーー、徹夜やべえだろう。だからお前も徹夜するんじゃねえぞ。
 あーー、やっぱそう思う。やっぱ起きたら死にそうだよな。つう訳でレオ、しょうもなき民であるお前に使命を与えよう。
 んだ、その反応。これは重大使命だぞ。
 いいか。よく聞け。
 俺は今から仮眠室に戻るけど、俺たちが出てくるまでお前は誰も入れるな。
 いや、だってよ。一人にしていたらあの人自殺しそうじゃん。
 そう。それにさ、まあ、びっくりしたけど、あの、あれ、……、んーースターフェイズさん俺の事好きだったわけじゃん。そんで好きって滅茶苦茶好きって言ってきたんだぜ。
 これはあれじゃん。このチャンスを捕まえねえと駄目な奴だろ。

 なにするってやぼなこときくなよ。報告はしてやっから。ちっと刺激の強いものにはなるだろうけど。
 じゃあな。誰も入れんなよ
 




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