「アンタ、男に抱かれる趣味あったんすか」
 問われてスティーブンは動きを止めていた。外そうとしていたネクタイが中途半端に残りながらベッドに腰掛けているザップを見る。珍しく上着も脱がずに座るだけだなとは思っていたが、そんなことを問われるとは。ザップの目はスティーブンの目と会うことがない。チラチラ見てきてはいるものの大半は床を睨んでいる。
 ああ、なんて思った。
「……なんで」
 思ったけど問う。ザップの目がちらりとスティーブンをみてまたすぐにそらされた
「見たから」
「何を」
 もうここまで来たら確定的だ。それでも問う
「アンタが腰抱かれてラブホに入るところ」
 唇を尖らしたザップが答えた。思い浮かんだのは数日前のことだ。別に罪悪感のようなものはわかない。今の状況は恋人に浮気を咎められているようなものだが気にはならなかった。ネクタイを外す。
「はぁ。一応ライブラメンバーいないところ選んだつもりだったんだがな」
「オレちゃんの行動範囲なめないでください」
「色んなとこにいるもんなお前の愛人」
「そうなんすけど……」
 ザップとは相変わらず目が合わなかった。下唇を噛んで何処かいたたまれなさそうだ。あーー、可哀想にななんてそんな言葉が一瞬スティーブンの中に湧くもののすぐにでもと思っていた。俺が情報収集や でそういったことをすること言ってなくても薄々気付いていたはずなんだがなと。それがなんでこう何か言いたげな姿なのか。分かっていて許して、スティーブンもまたザップが一人だけに絞れないことを分かっていて許す。
 そういう関係だったはずだから。
 それがなんでと疑問に思うが、それは次のザップの言葉で解決していた。
「抱かれたんスカ」
 下唇をかみ、床を睨みながら聞かれた言葉。
 ああ、そういうことかと理解する。
「気になるのか」
「……や、だって」
「お前だって愛人いっぱいいるだろう。それと同じさ」
「そうかもしれませんけど……、でも男はあんただけだし。それに……」
 意地悪言葉を重ねればザップの頭はますます下に下がっていく。もっと虐めたくなりながらでもここらで潮時かと切り上げる。気になるのかと問うた。ザップの顔が上がって目が合う。拗ねたような目であった。隠しきれない独占欲が浮かんでいてやっぱりて言葉が出ていく。
 心地よくてもっと感じたくなるけど、あまりやりすぎると獣に逆襲される。だから上着を脱いで、シャツのボタンに手をかけながらゆっくりと近づいていく。狼狽する気配
「お前も抱いてみるか」
 こんな展開になるなんて予想だにもしてなかったのか慌てながらもつばを呑み込む男。手が動いて俺の胸元まで来る。それを捕まえて押し倒していた。
「なんてな。悪いがお前には抱かせらんないよ」
 点になるめ。数秒おいてから悔しそうな顔をする。その肌に手を伸ばした。




「悪いな」
 呟くものの言葉は、ザップには聞こえなかった。
 気絶するまで抱いたから今はもう夢の中だ。こうなったら朝まで目覚めないことを知った上でスティーブンは話している。
「俺はさ、お前に抱かれるのだけは嫌なんだ。だってお前しつこそうだから一度でもやらせると形まで覚えて中に残っちまいそうだろう
 お前みたいにさ」
 スティーブンの手がザップの下腹に触れていた。くるくると円を描くように撫でていく
「俺は残されるより残すほうがいいからさ。
 それに嫌になっちまいそうだろ。俺はもうこれ以上お前にかき乱されたくないんだよ。まあ、でも暫くはお前の今日の顔思い出しちまいそうだな」

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