注意 幽白、血界、文ストのクロスオーバーになります。CPは幽蔵、ステザプ、福太です。大丈夫な人だけお読みください


「ずいぶん店の中が賑やかになっていますね。どうしたんですか」
「バイト。人手欲しかったし雇った。あ、いつものでいい」
「そうなんですね。ええお願いします」
 もう何人目かも分からない問いかけをされて幽助はすんなり答えていた。聞く前にすでに腕は動いていてラーメンを作り始めている。そんな幽助に苦言をていすることもなく今日のお客である蔵馬は幽助がバイトと言った二人を見ていた。
 一人は着物に襷をかけた銀髪の髪をした男。それなりに年がいっているようだ。やたらと目つきが鋭い。
もう一人はワイシャツを腕まくりし、その腕からシンプルな黒のエプロンを着ている男。こちらも銀髪の男ほどではないものの年はいってそうであった。温厚そうな顔立ちをしているものの頬には大きな傷がついている。
 気付かれないよう観察しているつもりだったが、二人の視線がそれとなく蔵馬を見る。別の客に提供するラーメンを用意しているが最近雇ったわりにはどちらもしっかりとした腕前だった。恐らく元から料理はそこそこしていた方なのだろう。ただラーメンの水切りなどはそれなりに技術がいるはずだが、それも蔵馬が見た限りは完ぺきな動きだった。幽助は単純に筋がいいなどと思っていそうだが、どうにも蔵馬にはうさん臭く感じた。
 ラーメンの作りがうまいとかが問題ではなく、どうにもこうにも只者ではないような感じが漂っている。二人とも動きに一切の隙がなくて、体つきもかなりいい。捲り上げている袖から見える腕は両者ともすらりとはしているものしっかりとした筋肉がついており、それも実用的なものだった。
 ただラーメンを作って渡すだけの動きでも、かなり戦えそうな気配が漂っている。
「二人も雇うなんてどこで出会ったんです」
 あいよと幽助が野菜たっぷりのラーメンを差し出して来るとき、ついでのように蔵馬は聞いた。ああと幽助の目が二人を見る。
「あっちはここで食べてる時に何か悩んでそうだったから聞いたらこの先何をしていくかで悩んでたからじゃあ、ここで働けよって言ったんだ。向こうは何かあーー、その途中から来たんだけど、それなら俺もって言ってきてさ。二人雇えるか、俺金の計算とか苦手だから不安だったんだけど、でも人手は大いに越したことねえから雇うことにしたんだ。
これで好きな時に休めるし、酔の奴らが急にみんなできたりしても対応聞くだろう」
「ああ、そう言えばこないだみんなで来たそうですね」
「そーー。あの時は大変だったぜ他の客もいるってのにバカ騒ぎしやがるし、おせえって文句言ってくるしさ。まあ、もちろん黙らせてやったけど、ああいうのに対応できるためにもまあ人は言ってもいいだろう。
 やりくり大変だけど」
 暢気に話していた幽助が頭をかく。分かるようでわからないが幽助であればありそうな話で深くは考えないよう蔵馬はしていた。それよりもと雇われた二人を見てため息をつく。
「一人の時でさえかなり計算大変そうでしたからね。俺手伝いましょうか」
「お、いいの。さっすが蔵馬」
 自然出ていく言葉。幽助がすぐさま飛びついてくるので蔵馬は呆れた顔をわざと作ってみていた。
「どうせ年末になったら泣きつかれますし、今回は途中で泣きつかれてきそうですからね」
「へっへ。お前が行って本当良かった」
 蔵馬は呆れた声をだすものの幽助にはどこ吹く風であり、効いている様子はなかった。ふふと蔵馬の口元が上がって穏やかな空気になり始めていた。そこに声がかけられる。
「あの店長」
 声をかけたのは店員の一人だ。まだ若い黒髪の男の方。その男の目は完全に蔵馬のことを見ていた。
「お、なんか分かんない事ある」
「いえ……そちらのお方は知り合いかと思いまして、随分親し気なようなので」
「ああ、こいつ昔からのなじみで俺の友達蔵馬って言うんだ」
「そうなんですか。こないだから働かせていただいてます。よろしくお願いします」
 幽助が男の問いににこにこと答える。疑う様子など欠片もない所を見ながら、蔵馬は頭を一つ下げていた。よろしくお願いしますと言いながらやはり気づかれないよう観察してしまう。近くで見るとますます体格の良さが伝わってくる。その腕のたくましい事。己を軽いとは思っていないが蔵馬の一人や二人ぐらい簡単に持ち上げられそうだった。
 そうやって観察しているともう一人の店員も近くに来ていた。そして幽助の方に話しかけている。
「何かをつけた方いいか」
「あーー、大丈夫大丈夫。どうせラーメン一杯しか食べて帰らないから。酒でも飲んでけばいいのに」
 ひらひらと振られる手。その後すぐに幽助ははあとため息をついていた。ほらよと蔵馬の前にラーメンのたっぷりはいた器が置かれる。野菜がこの店の通常メニューよりも増し増しなのはいつものことだった。今日ぐらいどうだよと言われて蔵馬はいつものようにNOと首を振っていた。
「明日も仕事ですからね」
「別に飲んでも残らないだろう」
「そうなんですが、あんまり飲む気にもなれないんですよ」
 いつもの答えにまた幽助がため息をつく。いつの間にやら二人の近くから二人の店員は離れていて他の客の相手をしている。それでも気になるのかちらりと見てくる視線は感じていた。蔵馬の方も変わらず観察はしている。
 気付かれないよう動きを目で追いながら端に手を伸ばした所で、つまらなそうにしていた幽助がそんな事よりと蔵馬の全体とじろじろと見始めた。何を言われるのかはすぐに分かる。
「てか、ちゃんと食べてんのか。最近また仕事忙しいんだろ。あっちもなんか色々大変って聞くぜ」
 思った通りの言葉だった。毎回こうだなと思いつつ蔵馬は銀髪の男の方に視線が行き気味だった。さっき何故か男の眉が深くひそめられていたのだ。
「今こうしてラーメン食べるところですよ」
「そうだけど、そうじゃなくて普段」
 男を視界の端に入れながら幽助との会話を続ける。箸で麺を掴んでみせるとだーーと彼は頭をかいていた。分かっているだろうと言いたげな反応。ジト目で幽助が見てくるのは分かるのだが、どういう訳か男の方もそんな目で蔵馬を睨んでいた。
「まあ、ぼちぼち。栄養が足りないなって思ったらここに来ますのでその時はおいしいラーメンお願いしますね」
「いや、栄養をラーメンで取ろうとするのはどうなんだよ。何でお前そう自分のことに関してはバカになんだ」
「はっは。失礼だな。幽助よりは頭いいですよ」
「うっせ。それは分かってんだよ」
 ぷくうと頬を膨らませる幽助。ぐるると喉を鳴らして睨んでくる彼よりもやはり気になるのは男の方だった。こんな会話に何があると言うのか先ほどからそわそわとしていて、話していた客に一旦謝罪して幽助の元にもう一度来ている所だった。
「店長」
 あっと幽助はその時になって初めて気づいて彼を見る。銀髪の男の目は幽助を呼んだわりに、蔵馬を見ていた。
「店にあるものを使っていいなら今から野菜炒めでも作ろうか」
「え、ああ、いや大丈夫だぜ。一応野菜大盛りにしたし」
 そうして言った言葉に幽助は一瞬あっけにとられた後、くびをふった。ほらと指さす蔵馬の器の中には大量の野菜。正直麺と野菜の量何方が多いのか計ってみたくなるぐらいには野菜が入っている。男はそれを見てそうかとつぶやく。それでも何か言いたそうで蔵馬はしまったと思っていた。恐らくこの人は幽助よりも口うるさいタイプだ。とそう思ったのだ。
 そうかと言いつつも男には納得していない様子があった。そして何かを取り出しては皿にいれ蔵馬の前に差し出してくる。
「これを」
 差し出されたのは美味しそうな色に染まった卵だ。前に置いてじっと見てくる
「なんですか」
「卵だ。卵は栄養価が高いからな」
「はあ……」
 へえそうなんだと幽助から感心した声が出て食えよと彼まで横から言ってきていた。男の目は蔵馬をじっと見ている。受け取らなければ駄目だと悟った。ありがとうございますと言って皿を己の元に近づけると男は満足したようだった。
 サンキューと幽助も言いながら、でもと頬を掻いていた。なんか心配させたみたいで悪いなと彼が言うのに男の方も小さく首を振っていた。
「私の方こそ勝手にすまない。……私の知り合いにもろくにご飯を食べないものがいるから話を聞いていて心配になってしまったのだ。
……ちゃんと食べていると良いのだが」
「あーー、そーーいうやついると心配になるよな」
 男の言葉は最後の方は独り言になっていた。少し目をそらして誰かのことを思い出したのだろう。ため息をつきつつ吐きだすそれに蔵馬にとってはあまり嬉しくないが幽助が深く同意していた。
 アハハと乾いた笑いをこぼした。
「なんだかんだ幽助がご飯食べさせてくれるので大丈夫ですよ」
「心配してるの俺なんだけど」
 蔵馬のことをじと目で幽助処か男まで見てため息をついていた。蔵馬にとっては居心地の悪い空間が出来上がって、逃げるように視線が泳いでしまった。もう一人の店員が見えて、んと蔵馬の目元が寄る。そのもう一人はじっとこっちを見てきていて、何かを思い出しているようなそぶりがあった。
「そう言えばあいつもちゃんと食べているんだろうか」
 ぼそりと男が呟いていた。それに幽助が目ざとく反応する。
「え、何スティーブンにもちゃんとごはん食べない知り合いいるの」
「あ、ああ。俺の場合は金遣いが荒いからすぐご飯食べられなくなるだけなんだけどね。女の家を行き来して生活しているような屑だから大丈夫だとは思うけどその辺で野垂れ死んだりしてないかなって
 まあ、大丈夫だと思うけど」
 口に出しているつもりはなかったのだろう。男は驚きながらもすぐに答えていて、きいた幽助は少し引き気味になっていた。蔵馬はそんな男いるんだなと呆れた顔をしてしまう。それから少ししてにしてもと男を見た。黒髪の男は見る限りは真面目そうな男に見える。そんな男の知り合いにしては話しに出てきた少々似合わないような気がした。とはいえ自分も幽助や桑原と友人だと言うと驚かれることがあるので人の関係についてはあまり統計的に見ることはできない。それでも少々気になってしまう所だった。どんな男なのかと。
 考える横では幽助と店員二人が話している。どうもお互いの苦労話になりそうな感じだった。これはさっさと食べて帰った方がいいかなと食べるスピードが速まる。そんな蔵馬より二つほど空いた席に座っていた客が一人立ち上がっていた。食べ終わったのだろう空の器とその隣に小銭が置かれている。よくここに来ている常連客であった。
「大将。お勘定ここに置いとくよ」
「おう。ありがとな」
「新人さんの滅茶苦茶美味しかったよ。良いの雇ったじゃないか。
 あ、あと三人とも頑張ってな。陰ながら応援してるぜ」
 にこにこと人のいい笑みを浮かべて常連客は帰っていた。残されたのは常連客の言葉に固まった三人だ。
「なんか、応援されたんだけど、何応援されたんだ。三人だよな」
 幽助の首がぎぎいときしんだ音を立てる感じに動いた。
「……店の繁盛ではないか」
「充分繁盛しているように思えるけどね……。と言うか、多分だけどさっきまでの会話の内容じゃないかな……」
「……」
「……」
 無言になった三人。残った客二人ほどが三人と蔵馬を見ていた。じいと蔵馬の方に三人の視線が行く。仕方なく蔵馬は笑った。
「よろしくお願いしますね」
「はああ」
 深いため息が聞こえる。幽助以外は知らないんだけどなとはこの雰囲気ではいえなかった。


 もう少しで食べ終わると言う時、蔵馬はんと首を傾けていた。どうも騒がしかったのだ。
「あれ、なんか騒がしくないか」
「本当ですね」
「言い争っているみたいだな」
 幽助たちも気づいて騒がしい声が聞こえてくる方を見ていた。他の客はもう帰っていて残っているのは蔵馬だけだ。騒がしい声はどんどん大きくなっていく。一人分の声しか聞こえてこなかったのが、少しずつもう一人の声が聞こえ始めていた。
「だーかーらー俺が悪うございましたって謝ってんだろ。許せよ」
「はあ、許してるよ。さっきから何度言わせるんだい」
「態度が許してねえんだよ。態度が」
「言葉じゃ許してるんだからいいだろう」
「よくねえ、絶対後から何かしら文句つけてきたりするやつじゃん」
 おそらく声の主は男だろう。声がうるさくてよく聞こえてくる。とはいえ、それなりに距離はあるようでそれなりに耳がよくないとまだ気にならないはずだ。今この場にいる人は全員聞こえているようでますます蔵馬は疑いを深くして店員二人を隠れ見た。
 言い争う声はどうやらうるさい方が相手を怒らせてしまっているようだった。
「しないよ。そもそもさっき会ったばかりでここで別れたら終わりだ。文句のつけようもないだろう」
「オレがあんたを付け回す気だからここで終わんねえの」
「逆になんでそうなる」
 声はどんどん近づいてくる。丁度屋台のある公園近くを通ろうとしているのだろう。もうすぐそばだ。店員二人を見る。どうも今二人の様子はおかしかった。洗い物をしていたのが固まり声がしてくる方をじっと見ている。
「中々にぎやかですね」
「おう。そうだな」
 もしやと思い話す。
「ん、どうした二人とも」
 声の方を見ていた幽助が蔵馬を見て、その途中で店員たちの様子にも気づいていた。不思議そうに首を傾ける幽助。その言葉に声をかけられた二人ははっと肩を揺らして黒髪の男の方は首を振っていた。銀髪の男は手にしていた皿を片付け、襷に手をかけて居た。じっと声がしている方を見ている。
「あ、いや……。何でもない」
「少し出てきていいか」
「はあ、まあいいけど」
 男たちの言葉に幽助はますます不思議そうにしたが、蔵馬はなるほどと思っていた。そして出ていく必要はないのではとますます鮮明になっていく声に思う。
「お、ちょっと待ってこっちからいい匂いしやがる。ご飯食べていこうぜ。奢ってやるからさっきのはそれでチャラな」
「は、否、行かないけど」
「良いから」
 襷を解いた男の動きが止まった。
「ちょ、何引っ張っているのだよ。いい加減にしたまえよ」
「ぜっていうまいから浅慮すんな。俺の鼻がそう言ってる
「遠慮はしてない」
 どんどん近づいてくる声。もう公園の入り口近くまで来ているだろうか。
「……やはりいい」
「え、ああ」
 再び男は襷を結び直していた。中々の手際だった。公園の入り口に影が現れる。恐らく言い争っていた者たちだ。黒髪の男がため息をついた。
「お、発見。ほら、あの屋台。あそこだあそこだ」
「離してくれないかな。って、あれ」
「あ?」
 背の高い男がこれまた背の高い男を引っ張っていた。その動きが途中で止まる。人の顔までしっかりと把握できる位置にまできていた。銀髪の髪の男に蓬髪の男だ。両社ともその目が見開いている。
「番頭何で」
「社長。どうしてこんなところに」
 そして出ていく驚いた声。二人分のため息が聞こえる。
「やっぱりお前かザップ」
「お前だったか太宰」
 そして二人の店員が恐らく男たちの名前を呼んでいた。気付いていなかった幽助がえっと声を出している。その声は聞こえなかったのか銀髪の男の方が屋台の席を指さした。
「まあ、いい座っていけ」
「僕は頼むからよその行って欲しいんだがな。良い子だから帰りなさい」
 対照的な二人の声。その反応も対照的だった。
「いえ、私は良いですから」
「いいから。座れ」
「そう言わねえでくださいよ。俺ちゃん実はほとんど金なくてスティーブンさんがいてくれて助かりました。そういやラーメン屋台で働くって言ってましたもんね」
「奢るって言うのはなんだったんだ」
 座れと言われた方が帰りたそうに少し後退り、帰れと言われた方がずかずかと前に出て椅子に座っている。蓬髪の男は後退りはしたものの銀髪の男に引っ張られて屋台まで来ていた。
 じっと睨まれ大人しく席に座っている。屋台の明かりでわかったが銀髪の男は褐色の肌をしていた。蓬髪の男は腕や首に包帯を巻いている。
「なけなしの金をはたいてですよ。だって全然許してくれないんだもん」
「許しってるって何回言わせるんだい」
「あんたの態度が許してねえの」
「何したんだ」
 また軽く言い争う二人、はあと黒髪の男がため息をついていた。呆れたような目で男を見る。迷惑をかけるなとその目が言っているのにかなりのトラブルメーカーなのだろうことが伺える。
「あーー、何ってただ」
「ザップ、さんでしたか」
 話そうとした男を男の言葉が遮る。にっこりと蓬髪の男は笑っていた。馬鹿でも何かしら感じ取ることのできる笑みだ。銀髪の男の目が見開いてから頷いていた。
「あ、おお。なんでもねえす」
「ふうん」
 黒髪の男の目が細められた。
「太宰何していたんだ」
「何でもないですよ」
 銀髪の店員が蓬髪の男を呆れた目で見ている。これまたにこりと笑うのに出ていくため息。
「まあ、仕事を辞めた身。深くは聞かぬがほどほどにしておけよ」
「別にやめなくてもよかったのに、あんな奴ら好きかって言わせておけば」
「そうも言っておけんだろう」
 前の職場で働いていた中だったのか。それぞれの関係が何なのかそれとなく探ろうとしていた蔵馬は二人の会話に心の中でメモをしていた。社長と言っていたから、そうだったのだろう。辞めたのには何かしらの深い訳がありそうだった。
「それで今の働き場所はラーメン屋台ですか。乱歩さんが知りたがっていましたよ。最近はいつ行っても家にいないって怒っていましたし」
「あれに合わぬよう帰ってないからな。今あうと煩いだろう」
「そうですね。社長を連れ戻すと息まいてますから」
「お前も他言せぬように」
「分かりましたよ」
 首をすくめる男。元の仕事が何なのか分かるかとも思ったがこれだけの会話ではまだ分からなかった。ただどうもきな臭いなとは思っていた。蓬髪の男の方も動きに隙がない。それにその男もちらりと蔵馬の方を見ていた。
 蔵馬の方を見ていないのは褐色の男ぐらいだ。褐色の男は二人分奢ってくださいよと黒髪の男に頼んでいる。
「二人とも知り合いなんか」
 そんな様子を見て幽助の方が店員二人に問いかけていた。はっと二人が気付いて幽助を見る。
「ああ、店長すみません。こいつが今話していた屑ですよ」
「え、ちょ。番頭どんな話をしていたんすか」
「私の方もさっき話していたのがこいつだ」
「はい? え、社長私の話をしていたんですか。どんな話を」
 それぞれが紹介したのにそれぞれ驚いて相手の方を見ている。酷いと褐色の男はわめいて、蓬髪の方はあまり変な話はしないでくださいよと首を傾けている。
「お前がろくに食べんという話だ。どうせまた暫く食べていないのだろう。私のおごりだ。ラーメンを食べていけ」
 言いながら男の手は麺を手にしていた。世話を焼く者はみんなこうなのか。人の返事は聞いていない。
「えーー。ちゃんと食べてますよ」
「昨日の昼ごはんは」
 不満を漏らす蓬髪の男に麺をゆでながら男は聞く。つい蓬髪の男を見てしまう。それは黒髪の男や幽助も同じだった。褐色の男だけは俺もとまだ言っている。
「そう言うの普通今日の昼ごはん聞きませんか」
「ならそれも聞こう」
「ふふ」
 蓬髪の男はまあすばらしく美しい笑みを浮かべる。ああして笑うと大抵の人は黙ってくれるんだよなと男と同じような美しい顔を持っている自覚がある蔵馬は密かに思った。そしてこれはこの男も利用するタイプだと理解していた。
 ただその笑みは大抵の相手に聞くので会って慣れ親しんでたりすると効かなかったりするのだ。
「できるまで大人しく待っていろ」
 男の方は慣れ親しんでしまっているのだろう。ため息をついている。そうして幽助の方も蔵馬で体制がそれなりにできていて呆れた顔をしていた。黒髪の男の方はよく分からないが同じように呆れた顔をしている。
「こりゃあ、大変だな」
「そうですね。オレはちゃんと飲む栄養食品食べましたよ」
「お前も問題なんだよな」
 しみじみと幽助が言うのでこれはチャンスと口にしたがどうやら駄目だった。横では褐色の男はまだ頼み込んでいる。
「ばーーんとう」
 何処から出しているのかと思うような甘えた声を男は出していた。これはプロのひもだと。別にプロひもを見たことはないが蔵馬は思った。黒髪の男が長く息を吐きだしていた。
「はあ、喧嘩売らずに大人しく待っているんだぞ」
「やりぃ」
 黒髪の男もラーメンを作り始める。その男の手元を褐色の男は楽しそうに見ていた。そして口笛を一つ吹いている。
「おーー、手際良いっすね。いつもローストビーフとかロールキャベツとかばっか作っているけどこういうのも作れるんすね」
「まあ、どっちも料理だからね」
 男の声に湯の中を見ながら男は答えている。まあ、見た目からしてそう見えるが洋風のものを好んでいるようだった。その癖店はラーメン屋台なのかと男を見る。幽助の方は驚きながらよだれを垂らしていた。
「え、そんなうまそうなもん何時も作ってんのかよ。食ってみてえ。ちょっと今度作ってきてくれよ」
「ええ。そんな対したものではないですよ」
「いいじゃん」
「まあ、いいですけど」
 輝く目を幽助は男に向けていた。不良だったくせに失われていない幽助の輝く目はどうにも断れない力があって男もそれに負けたのか頷いていた。よっしゃと喜びそれから幽助はもう一人の方を見ていた。
「お、そう言えば福沢さんも料理良く作るんだったよな。どんなもの作っているんだ」
 自分にまで問われるとは思っていなかったのだろう。丁度麺をゆで上げたところだった銀髪の男は驚いてからそうはいってもと頬を小さくかく
「作ると言っても私は日ごろの食事なのでそんなすごいものは作れないが」
「社長は和風料理が多いですよ。後蟹料理が絶品です」
。答えたのは銀髪の男ではなく蓬髪の男だ。帰りたそうにしながらも会話はしっかりと聞いているようだった。
「蟹! え、高級食材じゃん。何作るんだ」
「……蟹と言ってもカニ缶などが多いし、そこまで高級では……。まあ、作るのは雑炊や炊き込みなどは良く作るな。後は酢の物や汁物などか」
「私あれが好きです、あのコンソメゼリーの中に入っていた奴。冬は鍋ですけど、夏はあれがいいですよね」
「ああ、あれかメニューを見て作ったがなんという名前だったか……」
 ふむと男が小さく首をひねる。話ながらも手はしっかりと動いていてもうラーメンは完成していた。幽助に野菜を多く使っていいか確認していて、それに幽助は快く頷く。蓬髪の男の方は嫌そうな顔をしていたが、それは見ないふりしていた。
「なんか色々作ってるんだな」
「まあ、……好物だったら食べるからな」
「ああ」
「なるほど……」
 蓬髪の男の前に出されたラーメンを蓬髪の男は睨んでいる。箸を手にするがすぐには麺に伸びていなかった。そんな様子を見て幽助も黒髪の男も頷いていた。
「蔵馬はそう言う点だしたら食べてくれるから楽だよな」
「うちのも金がないだけだからね」
 幽助の目が蔵馬を見て、黒髪の男の目は褐色の男を見ていた。褐色の男の前にもラーメンが出されるが蓬髪の男とは違い通常のラーメンだ。ずりいと騒ぐのを一睨みで男が止める。
 はあと三人同時にため息をついていた。
「なんか三人やたら仲良くねえ」
 ずるずるとラーメンをすすりながら褐色の男が屋台の中にいる三人を見る。
「話が合ってしまったんだろうね」
「納得いかないな……」
「分かる」
 蓬髪の男は往生際が悪くまだ一口もラーメンに手をつけてなかった


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